9話 柳生再び

兵士達を残らず倒した4人は、スカーレットを連れて脱出のために用意したスバル360に向かい中庭を走る。
視線を感じた早紀が足を止める。中庭には高い塔が立っている。
その螺旋階段に男が立っていて、じっと早紀を見ている。男は柳生であった。
      
韓信が早紀に言う。
「行くのか?」
早紀が答える。
「うん」
韓信が言う。
「行ってきな。ここで待ってるよ」
早紀は頷き、塔に向かって走った。柳生は早紀を導くように、塔の螺旋階段をゆっくり上へ上へと上がって行く。
早紀は柳生の姿を追って、螺旋階段を駆け上がる。早紀が屋上から屋根に出た。
屋根は急な斜面になっている。そこに柳生が立っていた。
早紀が柳生に言う。
「あなた日本人ね?」
                                                                                              
柳生が静かに口を開く。
「遠い異国の地に流れ着いた俺は、大佐の命じるままに、多くの人間を斬って来た。俺が今まで生きてきたのは、自分の腕を試すよき相手に巡り会いたいという思いだけだ。 今、やっとその願いが叶う。俺の名は柳生左近。柳生新陰流」
                                                                                   
早紀が答える。
「私は早紀。御嶽韓信流。知ってる?」
柳生が答える。
「ああ知っている。柳生新陰流から枝分かれした御嶽新陰流がさらに枝分かれした流派だな。確か使い手はこの世に1人と聞いている」
早紀が言う。
「詳しいのね。その1人が私よ」
「見せてもらおう。御嶽韓信流」
柳生が美濃兼氏を抜いて構える。
早紀が村正を抜く。
「行くわよ」

早紀は素早く前進しながら、袈裟斬りを浴びせる。
柳生は避けずに一歩踏み込みながら、刀を振り下ろす。
危険を察知した早紀が後ろに大きく飛ぶ。
それを追って、柳生がもう一歩踏み込み、突きを放つ。
早紀は紙一重でこれをしゃがんで避ける。

早紀は柳生から距離を取って言った。
「ふーっ危ない。今の技、柳生新陰流の一刀両断ね。今度は、私の番よ」
早紀が刀を鞘に収め、居合の形に入る。柳生に背中を向けるように、体を捻りながら、高速で刀を抜く。
「国士無双!」
柳生は刀でそれを受け止めるが、刀は真っ二つに折れてしまう。
    
ガキィイーン!
「次は水平打ちよ」

早紀が柳生の目元に向かって、水平打ちを仕掛ける。
柳生は折れた刀を投げ捨てると、両方の手の平で早紀の刀を挟み込み動きを止める。
新陰流の奥義、無刀取りだ。
その瞬間、早紀は刀からばっと手を離すと柳生の手首を掴み、回転しながら風車を放とうとする。

「読んでいたぞ、風車」
柳生は早紀と同じ方向に回転し、風車の勢いを殺そうとする。
早紀は回転しながら左手で柳生のもう一方の手首を掴むと、柳生の動きを封じ頭から垂直に落とした。
「垂直落下式風車!」
ズダーン!
         
柳生は屋根に頭を強打し、失神した。
早紀は本来、左利きである。この技は、早紀の咄嗟の判断により生み出された本能の技であった。
体制を崩した早紀が屋根の斜面を転がり落ちる。韓信が屋上に駆け付けた。
早紀が滑り落ちるのを止めようと、走りながら頭から突っ込む。
早紀の前に回り込み、落下を止めた…いや、止まらない。
2人回転しながら斜面から落ちた!辛うじて屋根の端に指を掛け、早紀の腕を掴む韓信。
ぶら下がった状態で韓信が下の早紀に言う。
「長くは持たない…メールして…」
早紀は自由の効く片方の手でケイにメールした。
    

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

プルルル…
待機しているケイにメールが入る。
「あら誰かしら?……早紀さんだ。何ですって!今から塔のてっぺんから落ちてくるので対処して?大変!何とかしなきゃ」
ケイは必死でカバンの中を探すとカプセルを取り出した。
「あった!これよ」

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

韓信「手が痺れてきた、そろそろ落ちるぞ…」
早紀「うん」
韓信が屋根の端から手を離し、2人、急速に落下する。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

ケイがカプセルを地面に投げ付けながら叫ぶ。
「これが最後の道具、ハイパークッションよ!」
カプセルは破裂膨張し、巨大なクッションとなる。そこに2人が落ちてくる。
ズシャアアアアーン
早紀がクッションから下りてくる。
「助かったわ。ありがとう」
韓信もクッションから下りてくる。
「ケイちゃんがいてくれて助かった」
ケイ「車の用意が出来てます。さあ、みんなで脱出しましょう」
5人はスバル360に乗り込み、国境を目指した。
  
 


※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。

 


 

TOP   BACK   NEXT

右クリックを禁止する