8話 古屋敷の死闘


古屋敷では拷問が続いていた。
背中合わせに縛られ、天井から吊された二人が、マチルダによって交互に鞭打たれていた。
ビシッ!
杏華「うぐぐうう…」
ビシッ!
ジェーン「ううぅっ…」
マチルダが叫ぶ。
「さあさあどちらでもいいよ、早く白状しな!」
何度鞭打っても口を割ろうとしない二人を見て、マチルダは呟いた。
「いいだろう、それなら次はこれだ…」
マチルダは男達に命じ、部屋の中央に木馬を設置させた。天井から吊してある縄の高さを調節し、二人を木馬に跨がらせる。
マチルダが二人の肩を掴み、強く下に押し付ける。二人は同時に悲鳴を上げた。
杏華「うぐあああー!」
ジェーン「ひぃぎゃあああー」

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涼風がヨロヨロ飛んで来て早紀の肩に止まった。
早紀「涼風、怪我してるじゃない!」
早紀は涼風の手当をしてやった。
涼風「ニジョウドオリ…フルヤシキ…」
韓信「そこに二人はいるんだな、よし出発だ!」
韓信はドリー軍曹に言った。
「ドリー軍曹、この国にはどうやら第三の勢力があるようです。今からそこに向かいます。留守番お願いします」
ドリー軍曹は答えた。
「わかりました。気をつけて」
韓信と早紀は、二条通りの古屋敷に急行した。

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真夜中、古屋敷の門を叩く音がする。「誰だ!」と叫んで、槍を持った見張りが木戸に近付く。
見張りの腹に、木戸越しに刀が突き刺ささった。
グサッ
韓信「お邪魔しますよ」
韓信と早紀が屋敷内に潜入しようとした時、四方に松明が焚かれ、辺りが急に明るくなった。
ピエールが姿を現した。
「やはり仲間がいたな。だが中の二人の他に情報を聞く者はもういらん。君達には、この場で死んでもらう」
30人程の鉄砲隊が二人に狙いを定める。もはや逃げ道はない。二人は死を覚悟した…
グシャアアアーン!
その時、屋敷の門が砕かれ全身黒い鎧を纏った男が現れた。D卿であった。
ピエールが叫ぶ。
「な、何だ?あの男は?あの鎧の男から撃てー!」
鉄砲が一斉に火を吹く。D卿の固い鎧に、弾丸は全て弾かれる。
キィーン、キィーン、キィーン…
D卿が突進し、鉄砲隊を方天画戟で薙ぎ倒す。続いて槍隊が飛び出して来る。しかしもう誰もD卿を止められない。
「今だ!」
韓信と早紀が屋敷内に侵入しようとする。二人の前にピエールが立ちはだかった。
「行かせんぞ」
韓信がピエールに斬りかかり道を作る。
「今のうちに先に進め!ピンチの時にはこれを鳴らしな」
韓信は早紀にそう言うと、ペンダント型ブザーを渡した。早紀はそれを首に掛け屋敷内に走る。
拷問部屋で木馬に乗せられた二人を発見した早紀は、二人を木馬から下ろし、聞いた。
「あなた達を拷問した者はどこ?」
杏華が答える。
「外の物音を聞いて、そこの階段を上がって行ったわ…」
早紀は階段を駆け上がり、襖をバッと開けた。その瞬間、マチルダの鞭が飛んで来て、早紀の首に絡み付く。
左右の壁に続けざまに叩きつけられ、早紀はぐったりと倒れ込んだ。
マチルダが言う。
「あら、もう終り?何だ手応えがない。私は鞭だけでなく、剣も得意なのよ。最後は、私の必殺技でとどめを刺してあげる。私の必殺技『国士無双』で」
その言葉を聞いて早紀がふらっと立ち上がる。
マチルダが言う。
「あらまだ立てるのね。見せてあげるわ。私の国士無双」
マチルダは居合の構えから腰を大きく捻った。早紀も同じ動作をする。
ガキィィィーン!!
二人の刀が激しく交差する。国士無双は捻りを加えた抜刀術であった。
パキィィーン!
マチルダの刀が折れ、刃先が畳に刺さる。
早紀「あなたには、その技は似合わないわ…」
マチルダは外に逃げ出した。外には気球が用意してあった。気球がゆっくり上昇して行く。
早紀が籠の手摺りに飛び付く。早紀をぶら下げたまま気球は更に上昇する。
早紀はペンダントに手を掛け、ブザーを鳴らした。
リリリリリリリ…
マチルダが早紀に言う。
「まもなくこの国は我が国のものとなる。傷つけあえ。殺しあえ」
早紀が答える。
「あなたの思うようにはならない。やがてこの国はしっかりと歩き始める…」

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地上では韓信とピエールが戦っていた。
遠くの空で微かにブザーが聞こえる。
韓信はピエールの足を払いひっくり返すと、音のする方に走りだした。

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「お喋りはこれまで。さようなら、お嬢さん」
そう言ってマチルダは早紀の手を踏み付けた。
早紀は手を離し、20メートル程の高さから落下した。

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畑が広がるあたりまで来た所で、韓信は空を見上げた。
(空では何が起こっているんだ?)
涼風が上空を飛んでいる。涼風に韓信が叫ぶ。
「涼風、位置を知らせろ!」
涼風「モットミギ…モットミギ…ソコダ…」
韓信は構えた。そこに早紀が降って来る。韓信が早紀を受け止めた。
ズシャシャシャー!!!
落下の衝撃を和らげるよう回転しながら二人転がって行く。10メートル程転がって回転が止まった。
そこにピエールが追い付いて来た。
「今だ!」
韓信の背中に刀を振り下ろす。
「ぐわあああっ!」
ピエールの腕に早紀の投げた短刀が刺さり、ピエールは刀を落とした。
さらに後ろからD卿が突っ込んで来る。方天画戟がピエールの腹にのめり込み、ピエールは吹っ飛ばされ失神した。
早紀は無事であった。韓信が言った。
「さあ、みんなで蝉丸様を迎えに行こう」
 

 

          

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