9話 惜別、そして祝砲


明け方、新撰組が池田屋から引き上げて来た。先頭には充実した表情の近藤と蝉丸がいる。
その前にドリー軍曹が現れ言った。
「蝉丸様、一緒に帰りましょう」
早紀は列の中の沖田に近付いた。
「これ返すわ」
そう言って早紀は、沖田に菊一文字を渡した。
沖田は刀を受け取り、早紀に言った。
「では勝負の続きを始めますか?」
早紀が答えた。
「血を吐いたその体では、私には勝てないわ」
沖田が微かに笑って言い返す。
「今のあなたもとても戦えそうには見えません」
早紀も微かに笑って答えた。
「そうね。そうかもね」
蝉丸は決意し、近藤に言った。
「すいません局長、俺、帰ります」
近藤が答える。
「隊を抜ける事は許されない。もし、どうしても抜けたければ、わしを倒してから行け」
やはりそれしかないのか。蝉丸は覚悟し、近藤と向き合った。
近藤が虎徹を抜いた。蝉丸は腰の鎖に手を掛けた。それを見た近藤が言った。
「わしに小細工は通用せんぞ」
蝉丸は仕方なく、虎徹を抜いた。二人は偶然にも同じ刀を持っていた。
近藤が蝉丸に斬りかかる。近藤の激しい攻撃に蝉丸は防戦一方になる。
(もうこの方法しかない…)
蝉丸は腰の鎖を近藤に投げ付けながら距離を取る。刀を左手に持ち替えて、両手をぶらりと下げた。
様子を見ていた早紀が、韓信に小さな声で聞く。
「あれ何?」
韓信が答えた。
「両手ぶらりだ…」
「きぃええええーい!」
近藤が気迫のこもった突きを打つ。
「うりゃあああー!」
蝉丸は近藤の虎徹に搦めるように自分の虎徹を突き出した。
ガチッと音がして、近藤の虎徹にひびが入り、わずかに軌道がそれた。
蝉丸の突きは深々と近藤の肩に刺さった。近藤はがっくりと片膝をついた。
後世の研究によると、近藤の虎徹は偽物だったといわれている。
この結果もそれが原因だったのかもしれない。
「失礼します、局長」
蝉丸は後ろを振り返らないで走り去った。ドリセミ一行もそれに続く。
土方が追い掛けようとするのを近藤が止めた。
「追わんでいい!蝉丸君は…この時代で生きるべき人間でない…」
一行が鴨川の川原にたどり着いた。既に時空の穴が開いている。
「今回これ使わなかったですね」
韓信がディビー・クロケットを指差した。
ドリー軍曹が言う。
「せっかくだから、空に向かって一発撃っときますか」
ズガーン!
鴨川の方向から聞こえる轟音を、肩の治療を受けながら近藤は聞いていた。
(さらば、蝉丸君)
一行は、時空の穴から現代に帰っていった。

それからしばらくして、事典から十一番隊長の名は消えた…


     (終)

 

     

 

 

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