2話 剣士一騎打ち


「ここは俺に任せてみんなは逃げろ!」
蝉丸が叫んだ。
留まろうとする早紀に韓信が叫ぶ。
「ここは一度引こう。蝉丸様、必ず迎えに来ますから!」
韓信と早紀は、鴨川の方向に向かって逃げた。その二人を美しい顔立ちの青年剣士が追って来る。
「あの男、多分、沖田総司だな」
走りながら、韓信が早紀に言う。
鴨川の川原には、既に時空の穴が開いている。
時空の穴の前まで来た所で早紀が韓信に言った。
「先に行ってて。私があの男を食い止める」
韓信は「気をつけな」と言って、時空の穴をくぐった。
早紀が追って来た男に声をかける。
「あなた、沖田さんね。私がお相手するわ」
男が答える。
「私の名前を知ってるんですか?光栄だなあ」
早紀が沖田の正面に立つ。沖田が菊一文字を抜きながら早紀に聞く。
「あれ?刀抜かないんですか?女の人だからって手加減しませんよ」
早紀が答える。
「どうぞ。ご遠慮なく」
沖田「では行きますよ」
沖田が三段突きを放って来た。
これは沖田の得意技で驚異的スピードで一度に三段の突きを放つというものだ。
相手には一度の突きにしか見えないという。
全段が早紀にヒットした…かに見えたが、早紀は一段目がヒットする刹那、しゃがんでこれをかわし、三段目が頭上を通り過ぎる瞬間、下から沖田の手首を掴んだ。
早紀「韓信流痴漢撃退術、風車!」
風車は、韓信が世の女の子のために考えた痴漢撃退術。触られた瞬間、相手の手首を掴み自らが回転し、捻りを加えるという物。
もしこの技を混雑した車内で打てば、回転により、他の乗客まで被害を受ける荒技だ。
「ぐおおおお…」
抜群の運動神経を誇る沖田は、自ら体を捻り川原に背中から叩きつけられる事により、回転を止めた。
持っていた菊一文字が跳ね飛んで時空の穴に吸い込まれた。
「なかなかやるわね。この勝負、お預けよ」
早紀はそう言って、時空の穴に飛び込んだ。
「待て…待て」
沖田は悔しそうに叫びながら、時空の穴が小さくなっていくのを見つめていた。

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「なんですとー!蝉丸様を幕末に置いてきたー!二人揃って何やってんですかー!」
ドリー軍曹の大声が、部屋中に響く。
韓信「すいません…」
早紀「すいません…」
ドリー軍曹が叫ぶ。
「もう一度幕末に行って、蝉丸様をすぐに呼び戻して来なさーい!!」
韓信「それが…天空僧正の話によりますと、時空の穴を往復で開けるのは、相当の法力を必要とするらしく再び気が満ちるまで三ヶ月はかかると…」
ドリー軍曹「三ヶ月?!ドリセミの人気作家が三ヶ月も不在とは、私を殺す気ですかー!!!グホゲホグホ…」
興奮して咳込み苦しがるドリー軍曹。早紀が水を飲ませてあげるとやや落ち着いた。
「わかりました…三ヶ月経ったら、二人には蝉丸様を迎えに行ってもらいます。それまでの間、二人には蟄居を命じます。今度行く時は私も同行します。それからあなた達二人だけだと不安なので、もう二人くらい同行させます。ジェーンと 杏華がいいでしょう」

二人は早紀の事務所で蟄居する事にした。
早紀「ドリー軍曹に叱られちゃったね」
韓信「ああ…」
何気なく本棚の事典を取った早紀がパラパラとページをめくって驚きの声を上げる。
「ちょっとここのページを見て!」
それは新撰組の隊長の名が記されたページであった。韓信は事典を手にすると、そのページを声に出して読み上げた。
「…九番隊長・鈴鹿三樹三郎、十番隊長・原田左之助、十一番隊長・蝉丸………蝉丸?!」
幕末で一体何が起こったというのだ?

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こちら幕末。蝉丸と土方が向かい合っている。
蝉丸が叫ぶ。
「土方さん、俺は怪しい者じゃない!あんた達新撰組に憧れて、見物に来ただけなんだ!」
土方が叫ぶ。
「やかましい!刀を指してるならさっさと抜け!」
仕方なく、蝉丸が虎徹を抜く。それを見た土方がいきなり兼定で斬りかかって来た。蝉丸はガキッとそれを虎徹で受け止める。
「何て重く鋭い剣なんだ…これが幕末を生き抜いて来た剣か…このままではやられる…」
覚悟を決めた蝉丸は、虎徹を放り投げ、土方に掴み掛かると、兼定を取り上げ遠くに放り投げた。
土方「貴様、何のまねだ!」
蝉丸「土方さん、殴り合いで決着をつけよう」
土方「何だと…いいだろう。かかって来い!」
蝉丸はニャッと笑うと地を這うような大振りのアッパーを放った。顎を打たれた土方は意表をつかれひっくり返った。
蝉丸は素早く馬乗りになると土方を殴った。土方も負けていない。逆に蝉丸を下にして殴り返す。
いつまでも続くかと思われた殴り合いを一人の男が止めた。
「二人共やめーい!」
止めたのは、新撰組の局長、近藤勇であった。騒ぎを聞き付け駆け付けたのであった。
近藤が土方の方を見て言った。
「トシよ、お前にしちゃあずいぶんやられたようだなー」
土方「はあ…」
近藤が蝉丸の方を向いて言った。
「君、名前は?」
蝉丸が服の泥を払いながら答える。
「蝉丸です」
近藤「そうか蝉丸君か。君はかなり腕が立つようだな。どうかな、君、新撰組に入らんか?」
蝉丸は少し考えて答えた
「はあ…喜んで」
「そうか入るか、こいつはめでたい。今晩は蝉丸君を囲んで朝まで酒を酌み交わそう」
近藤は豪快に笑った。
 

 

          

 

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