1話 蝉丸の願望


早紀の事務所で韓信と早紀がUNOをしていた。
その後ろで丸眼鏡の男が頼み事をしている。男は蝉丸であった。
蝉丸「なあ、韓信さん頼むよ。ちょっとでいいから幕末に連れてってよ」
韓信「だめです。行きません」
蝉丸「なあ、早紀ちゃん、頼むよ」
早紀「だめです。行きません」

部屋の隅でしょんぼりしている蝉丸がかわいそうになった韓信は、蝉丸の機嫌を取るように言った。
「義経でも見に行きますか?」
蝉丸はしょんぼりしたまま答える
「新撰組が見たい…」
今度は早紀が蝉丸に言う
「山中鹿之介見に行きましょうよ」
蝉丸が興味なさそうに答える
「新撰組じゃなきゃいやだ…」
韓信は早紀と顔を見合わせながら言った
「私達二人は、幕末に嫌なイメージがあって、絶対に行かないと決めてたんですよ。でも蝉丸様がそんなに新撰組が見たいのなら、仕方ない、ご一緒しますよ。ただし見物するのは、新撰組だけにして下さいよ」
蝉丸が少年のように目を輝かせながら言った
「本当に連れていってくれるのかい?いゃー嬉しいなー」

三人は、まず御嶽山に向かい、天空僧正を車に乗せ、京都に向かった。鴨川の川原に着いた所で、早紀が天空に頼んだ。
「ではお願いします、僧正」
僧正は頷くと経を唱え始めた。キィーンキィーンと金属音がして、空間に紫色の穴が開いた。
三人は僧正に「行ってきます」と言って時空の穴に入っていった。

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幕末京都は、正義も悪もない混沌の都。そこでは果てしない殺戮が繰り返されていた。
尊王攘夷派が猛威をふるう中で、幕府は京都の治安維持のため京都守護職を設置した。
任じられたのは、会津藩主の松平容保である。容保は治安維持のために壬生浪士組を組織した。
この浪士組が近藤勇を局長として変化したのが、新撰組である。隊旗は赤地に白の「誠」の文字。
新撰組の活躍と共にこの隊旗は有名になり、尊王攘夷派はこの隊旗を見ただけで震え上がったという。

蝉丸、韓信、早紀が幕末京都の鴨川に到着した。
蝉丸は黒のロングコート、韓信はいつもの鎧、早紀は黒のワンピースとこの時代には不似合いなかっこうで来たため、
活動は夜だけにし、日中は近くの廃寺に潜む事にした。期限は三日。韓信が蝉丸に言った。
「この時代は物騒です。もしもの時のためにこれを渡しておきます。ピンチの時に開けて見て下さい」
それは、小箱であった。蝉丸はそれを受け取り、ポケットに入れた。

活動が夜だけに限定されているためなかなか新撰組に巡り会えない三人。
期限の三日目の夜を迎え、半ば諦めかけていた時、早紀が叫んだ。
「あっ、向こうからそれらしいのが来る!」
素早く物陰に隠れ、様子を伺う三人。鋭い目つきにクールな顔立ちの男が四人の部下を引き連れ、通り過ぎて行く。
蝉丸が韓信に囁く。
「あれ土方歳三だよ。間違いないよ。くう、嬉しい…」
韓信が蝉丸に囁く。
「よかったですね。そろそろ時間が迫っています。帰りましょう」
その時、土方の足がピタリと止まった。
「そこに隠れてる奴、大人しく出て来な」
しまった!見つかった。三人は仕方なく土方の前に姿を現した。
蝉丸が土方に言う。
「私達はけっして怪しい者ではありません。本当の男達を見物に来たただの旅人です」
土方が三人をギロリと睨む。
「お前ら、尊王攘夷派の奴らだな?」
土方が部下に叫ぶ。
「おい、皆を呼べ!」
散っていた隊士達が続々と駆け付けて来る。
土方が兼定を抜いて蝉丸に斬りかかって来た。虎徹を抜いてガキッと受け止める蝉丸。二人に叫んだ。
「ここは俺に任せて逃げろ!」

 

     

 

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