第5話 処刑されるチサト

全裸で後ろ手に縛られたチサトが、馬に乗せられメインストリートを進む。
レオンと三十人ほどの兵士が周りを取り囲むように行列を形成している。
通りの両端には、群集が詰めかけ、その様子を見守っている。
レオンが叫ぶ。
「この女の仲間、出て来い!」
群集は誰も黙っている。
「度胸のない奴らだ。これでも出て来ないつもりか?」
レオンはそう言いながら、チサトの背中を何度も鞭打った。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!…
チサトがうめき声を上げる。
「うう…」
鞭を打つレオンの手がピタッと止まった。
「何だ?あの男は?」
通りの中央に浴衣の男が立っている。ドリー軍曹だった。

                                  
レオンが叫ぶ。
「ボルト兄弟、あの変な服の男を排除しろ!」
レオンに呼ばれ、兵士達の後ろから背の高い二人組が姿を現した。
二人組は、ドリー軍曹の前に立ち、聞いた。
「お前、何者だ?」
ドリー軍曹が静かに答える。
「私はドリー軍曹。三人組の一人だ」
群集の中にいたユキがその言葉を聞きはっとする。
(やっぱり、あの人、三人組だったんだ…)
ボルト兄弟が馬鹿にしたように、ドリー軍曹に言った。
「何を言うかと思えば、三人組とは笑わせる。とんだお伽話だ。
まあいい、三人組のお一人さん、俺達が相手してやるぜ」
ドリー軍曹をボルト兄弟が前後から囲む。
ドリー軍曹が兄に向かってパンチを放つ。兄は空中高く飛び上がり、それをかわす。
今度は弟に向かいパンチを打ち込もうとするが、弟も空中高くに飛び上がる。
背後から兄の蹴りが飛んで来る。
ガシッ!
今度は前方から弟の蹴りが飛んで来る。
ガシッ!
二人に攻撃が当たらず、次々に蹴りを浴びて、ばったりと地面に倒れ込むドリー軍曹。
倒れているドリー軍曹に向かい、兄が勝ち誇ったように言う。
「人間の脚力を最大限に高めるこのハイテクスーツを着た俺達の前では、お前など地を這う虫けらと同じだ」
弟が楽しそうに叫ぶ。
「兄さん、そろそろ止めを刺そう!」
ボルト兄弟が、二人同時に空中に飛び上がる。
その時、ユキが路上に飛び出し、泣きながら叫んだ。
「三人組のドリーさん、負けないで!」
その声を聞いて、ドリー軍曹がふらっと立ち上がった。
「はいやあああー!」
叫び声を上げ、地面を強く蹴り、ドリー軍曹が空中高く飛び上がる。
高く高く、ボルト兄弟よりも高く。
兄「嘘だろう、俺達より高く飛べる人間がいるわけが…」
弟「ば、化け物…」
唖然とする兄弟の腹に、ドリー軍曹の渾身のパンチがのめり込む。
グシャッ!
バランスを崩した兄弟は地面に落下し、失神した。
地面に着地したドリー軍曹を見て、レオンが叫ぶ。
「あの男をさっさと始末しろ!」
六人の兵士が襲い掛かるが、ドリー軍曹を止める事は出来ない。
「はいやあああー!はい!はい!はい!はい!」
ドリー軍曹が殴る!殴る!蹴る!蹴る!殴る!殴る!
腹を殴られた兵士の一人が、よろよろとレオンに縋り付いてゲロを撒き散らす。
「貴様、何をする!全員で取り囲め!」
兵士を突き飛ばしながら、レオンがわめき立てる。
兵士全員に押し潰されるように囲まれ、ドリー軍曹の姿が見えなくなる。
ユキが飛び出し、一人の兵士の腕を掴む。
「やめて!ドリーさんを殺さないで!」
「うるさい!」
兵士がユキを突き飛ばした。その姿が人々に、忘れかけていた戦う心を思い出させた。
一人が叫ぶ。
「ユキに続け!」
民衆が雪崩のように襲い掛かる。兵士達はその勢いに押される。辺りは大乱戦となった。
バシッ!バシッ!
レオンが鞭を振り回しながら、大声で叫んだ。
「静まれ、愚かな民衆共!」
兵士も民衆も一瞬手を止める。静まり返った中を、レオンがユキの方に向かって歩いて行く。
「お前だね。こいつらをそそのかしたのは!」
 

            

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