第六話 サマンサの運命(byボテン)

さらに1時間、女性の急所に電気を流し続けられたサマンサは目が虚ろになりぐったりとしていた。
「チッ、少しやりすぎたか」
「ハイデ尋問官」
「何だ?」
「もしかしたら、この女、本当に未来から来たんじゃないですか?」
「バカなこと言うな!」
「姉さん……この女、本当にドイツの末路を知っているのでは?」
「お前……お前はこの女の戯言を信じているのか!この大バカ者が!弟だと思うから目をかけてやったのに」
ハイデはゲアハルトの頬を引っ叩いた。一撃でゲアハルトは椅子から転がり落ちた。
「この女が悪いんだ!」
ハイデはダイアルを掴むと目いっぱい回した。
グギャャャヤヤヤヤヤャャャャアアアァァァ〜〜〜〜
サマンサは白目を剥いて体を激しく痙攣させた。通電はサマンサが失神するまで続けられた。
 
    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

サマンサは裸のまま独房に放り込まれた。毛布にくるまってガタガタと震えていた。電気ショックの後遺症もあって震えが止まらなかった。
「これを飲みな」
独房の下側の小窓が開いてスープが差し入れられた。サマンサは警戒して手を出さなかった。
「僕だよ、ゲアハルト。お別れを言いに来た」
ゲアハルトは床に這いつくばって、小窓から顔を覗かせる。
「お別れって?栄典するの?」
サマンサはがっつくようにスープを啜った。段々と韓信が助けに着そうもない気がして来て、いっそ毒でも入っているならばそれでも構わないと思った。
「いいや……ソ連戦線の最前線の部隊に配置換えになった。僕は姉さんみたいな尋問官にはなれなかった……」
「そうなの……ソ連戦線ならば行かない方が貴方のため何だけれど」
「教えてくれ、ドイツはこの後どうなるんだ」
ゲアハルトの顔は真剣だった。
「アメリカの参戦で、連合軍の軍力は圧倒的になるわ。結局独ソの戦争がアダになる。ただソ連は油断ならない国だから、どの道ドイツの敗戦は避けられないと思う」
サマンサは過酷なソ連戦線に回されるゲアハルトが哀れでならなかった。
「結局最後はヒトラー総裁の作戦ミスなのか?」
ゲアハルトは小さい声で言った。
「……そうね。でもね、ヒトラーの暗殺計画は悉く失敗するわ。結局それが戦争を悪戯に長引かせてしまったのかもしれないわ」
ゲアハルトの顔が強張った。
「君の名前を教えてくれ、これでお別れかも知れないから」
「私はサマンサ・アンダーソンよ」
「僕はゲアハルト・ブラッハー伍長」
「ゲアハルト伍長、お元気で」
 
     ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「チッ、携帯も使えなくなっている」
韓信が自分の携帯の電源を何度も入れ直している。
「だけど警官の持っていた携帯はアンテナマークがついているよ」
ドリー軍曹がG36と一緒に警察官から奪った携帯を見せた。
「つまり軍用にしか携帯電話を使わせていないってことね」
早紀は居眠りをしている天空僧正に自分のジャケットを掛けながら言った。
「天空僧正の話ではサマンサの行った時代のドイツにここから行くことは不可能みたいだ」
ドリー軍曹は暗い顔をした。
「私がサマンサを呼びたしたばっかりに……」
「そんなこと言っていてもしょうがないよ、軍曹」
韓信がドリー軍曹の肩をポンポンと叩いた。その刹那、図書館の外が急に明るくなった。
「お前らは包囲されている。おとなしく投降しなさい」
ドリー軍曹が窓の外を見ると数台の戦車が、図書館の前に止まっている。
「裏口にも戦車が止まっているわ。完全に囲まれている」
裏口を見てきた早紀が言った。
「こりゃヤバいことになってきたよ」
ドリー軍曹はG36のマガジンを抜いて残りの弾薬を確認した。
「あと3発しかない……」
 
     ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヂジュゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜
グギャアアアア!!
サマンサの右の乳房に焼き鏝が押しつけられた。白い煙が上がり、肌を焼く異様な臭いがした。
サマンサは足は左右に大きく開かれ、「人」の文字に両手吊るしで拘束されていた。
「これで5つ目」
ハイデは焼き鏝をサマンサの体から外すと、炭が真っ赤に燃えているドラム缶に放り込んだ。
サマンサはナチスの象徴であるハーケンクロイツの烙印を押されている。
「さあ、連合軍の情報を吐きなさい。このまま続けると体中にお前が憎むハーケンクロイツが刻み込まれることになるぞ」
「……フッ、私は連合軍のスパイじゃ……ないぞ」
サマンサは連日の拷問でかなり弱っていた。
「未来から我がドイツ軍の敗戦を知らせにきたってことか?まだそんな戯言を言うか!」
ハイデは新しい焼き鏝を持つとサマンサの下腹部に押し当てる。
ヂヂヂジュュゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜
グキャアアアアアァァァアアアアァァァ〜〜〜〜〜〜
サマンサは敏感な局部に焼き鏝を押しあてられ、悲鳴を上げる。
陰毛が焼け異様な臭いが立ち込める。ハイデの目がギラギラと異常に輝く。
「こんな場所に押されたら、お前は一生結婚できないな」
ハイデは楽しそうに笑うと、焼き鏝をドラム缶に戻した。
焼き鏝にくっ付いたサマンサの皮膚が焼けるのか、ゴッと音を立てて焼き鏝の先端が燃えた。
「ハァハァ、私の心配より……自分の心配をしたら」
「余計な御世話だ!」
ハイデはサマンサの顔面を殴りつけた。
グフッ
サマンサの唇が裂けて血が流れ出る。
「私は生涯をヒトラー総裁に捧げているんだ、ハイル・ヒトラー」
ハイデは踵を揃え、右手を一旦胸の位置で水平に構えてから斜め上に出した。
「そのヒトラー様も数年後には自殺するのよ。それでドイツは負けるの」
「それ以上言うな、スパイめ。殺してやる」
ハイデはサマンサの顔面に焼き鏝を近づける。
サマンサは覚悟を決めて目を閉じた。
バギュ−ン
銃声がした。
サマンサが目を開けると目の前にルガーを構えたゲアハルトが立っていた。ハイデはゲアハルトに射殺されていた。
「サマンサ、大丈夫か?」
ゲアハルトはサマンサの拘束を解き、抱きかかえた。
「ゲアハルト……貴方はソ連戦線に行くのでは??」
「ああ、でも止めた。ヒトラーを倒して俺がドイツを治める。この俺が平和な世界にするんだ。サマンサ、協力してくれ」
「ああ、ゲアハルト……」
サマンサは救われたような、しかし、このままでは歴史が変わってしまう。自分が歴史を変えるキーマンなんて不思議な感じがした。サマンサは即答できなかった。
「サマンサ、いいね。君の知っている戦争の結果の裏をかけば、労せず戦に勝てる。俺と二人で新しい平和な世界を作るんだ」
サマンサは困った。平和な世界は望むが、それではヒトラーがゲアハルトに代わっただけじゃないか……
「でも……」
「いいから、サマンサは俺の言うことを聞けばいいんだ」
ゲアハルトはルガーをサマンサの額に押し付けた。
「君が協力しないならば、死んでもらうだけだ」
ゲアハルトの指に力が入り引き金が引かれた。
“ああっ、結局私は助からないのね” 
サマンサがそう思った瞬間、サマンサの体が眩いばかりの光に包まれた。

「韓信さん?助けに来てくれたの?」
「違うよ……僕は……時空警官の……ポピパピッポ……だよ」
「時空警官?」
「君は……この時代の……人間じゃないので……ここで……死ぬわけには……いかない……君は……元の世界へ……」
 “あ〜これで元の世界に帰れる”
 サマンサの体がグルグルと回り始め、サマンサの意識は薄れて行った。
 
     ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ハッ!
サマンサが目を覚ますとドリー軍曹の執務室に倒れていた。自分がどうしてここにいるのか、思いだせなかった。
「確か、執務室のドアを開けたら黒い空間に落ちて……でも夢だったのね」

サマンサは五本木ヘルズから外に出てみた。
外は死んだような静けさで、街にはハーケンクロイツが溢れていた。図書館の方向には火の手が上がっていた。

 

        

右クリックを禁止する