第四話 幕末秘話(by韓信)

新撰組の土方歳三は、宇都宮、会津、米沢と転戦を続け、仙台で榎本艦隊と合流し、函館に入った。すでに局長の近藤勇は官軍に捕まり斬首され、沖田総司も結核で死んでいた。土方は、死に場所を求めていたのかもしれない…
五稜郭にいた土方の所に、報告が入った。
「函館山に上陸した敵軍の攻撃により、弁天台場の砦は陥落寸前です!」
(弁天台場は、新撰組の隊士が守っている。奴らを死なせるわけにはいかない…)
土方は馬を走らせ弁天台場に向かおうとするが、運悪く七重浜に上陸した政府軍と遭遇し、道を遮られる。
「邪魔だ、どけー!」
土方が政府軍の中に突っ込んでいく。鬼神のごとく刀を振り回し、次々に兵士を斬り倒しながら前進する。土方を取り囲む兵士の一人が叫ぶ。
「お前は誰だ!」
土方が答える。
「俺は新撰組副長、土方歳三だー!」
土方の名を聞いて恐れ逃げ惑う兵士達。鉄砲を構えている兵士の顔を見て、土方が斬るのを躊躇した。
(まだ子供ではないか?…)
ズダーン!
少年兵士の撃った鉄砲の弾が、土方の脇腹にのめり込む。馬からゆっくりと落ちる土方。政府軍がわっと土方の所に殺到しようとする。その時、土方の後方で甲高い金属音がし、空間に大きな紫色の穴が空いて、中から真っ赤なスバル360が現れた。ドアが開き、蝉丸が飛び出して来る。
バシッ!バシッ!バシッ!…
蝉丸が長い鎖を振り回しながら、次々に兵士達を倒した。
「お前達、土方さんに近づくな」
蝉丸は倒れている土方に走り寄り、抱き起こした。
「大丈夫か土方さん!」
土方が力無く答える。
「おお、蝉丸さんか…久しぶりだな…」
蝉丸「待ってろ、今、手当するから!」
土方「いや、いい…俺はもう長くない…それより蝉丸さんに頼みがある…俺を弁天台場の仲間の所に…連れて行ってくれ…」
蝉丸「わかった!」
土方、蝉丸、韓信、早紀、ドリー軍曹を乗せたスバルは、政府軍を蹴散らしながら弁天台場に向かった。

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新撰組の隊士が守る弁天台場の砦は、政府軍の猛攻撃を受け陥落寸前であった。そこにクラクションを鳴らしながら砦の壁を突き破り、真っ赤なスバルが現れた。蝉丸に支えられ、よろよろと車から降りて来る土方の姿を見て、隊士達が驚きの声を上げる。
「土方さん!それに蝉丸さん!」
蝉丸は隊士達に土方を渡すと、振り返って言った。
「おや、韓信さんは?」
早紀「わかりません。気がついたらいなくなってました」
蝉丸「そうか…二人に頼みがある。土方さんと隊士達に別れの時間をあげたい。少しの間でいい。官軍を食い止めてくれ」
「任せて下さい!」
二人は力強く答えて、持ち場に付いた。
砦の中では、横たわった土方を隊士達が囲み、別れを惜しんでいた。そこに蝉丸が扉を開け入って来る。
一人の隊士が叫ぶ。
「蝉丸さん、お久しぶりです!」
かつて蝉丸は、時空を超え幻の新撰組十一番隊長を務めていた事がある。
一人の隊士がくしゃくしゃになった似顔絵を見せながら、蝉丸に言う。
「俺、蝉丸さんに描いてもらった似顔絵、今でも持ってます」
「俺も」
「俺も」
隊士達全員が似顔絵を懐から取り出し、蝉丸に見せた。
「俺も…持ってるぜ…」
土方が、懐から血まみれになった似顔絵を取り出した。
土方が蝉丸につぶやく。
「蝉丸さん…また…殴りあいてえ…な…」
土方の手を離れ、似顔絵が床に落ちた。土方は、息を引き取った。

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砦の外では、隊士達が政府軍から猛攻撃を受けていた。絶え間無く鉄砲が撃ち込まれるため、一歩も前に進む事が出来ない。
早紀がつぶやく。
「これでは持ちこたえられない…」
「ここは私に任せて下さい!」
ドリー軍曹はそう叫んでコートを脱ぎ捨てると、浴衣にリュックの姿で敵の中に突っ込んで行く。政府軍まで数十メートルの所まで来た所で、ドリー軍曹がつまずき転ぶ。そこを狙い撃ちする政府軍。ころころ転がりながら、辛うじて岩場の陰に隠れるドリー軍曹。 政府軍の部隊長らしき男が叫ぶ。
「あの岩場を狙い撃てー!」
ズダーン、ズダーン…
無数の弾丸が撃ち込まれ、岩場がどんどん削られていく。その時、岩場のてっぺんに黒い鎧の男が立った。D卿であった。
部隊長がうろたえたように叫ぶ。
「何だあれは?…あの男を撃ち殺せ!」
撃ち込まれる銃弾を跳ね返しながらD卿が政府軍の中に突入した。四人の兵士達がD卿に殴られ吹っ飛んだ。六人の兵士達が一斉にD卿の胴にしがみつき動きを止めようとするが、D卿は一人ずつ掴み上げ、他の兵士に投げつける。その光景を見た隊士達は多いに勇気付けられ、前進を開始した。
部隊長が叫ぶ。
「いかん、押し返される。あれを、あれを持って来い!」
兵士達により、武器が運ばれて来た。その名はガトリング砲。当時の日本には三門しかない新兵器で、一分間に二百発の弾を発射するという。ガトリング砲が前進する隊士達に向けられて火を噴こうとする瞬間、D卿が両手を広げ、その前に立ち塞がった。
ズダダダダ…!
ズダダダダ…!
ズダダダダ…!
無数の銃弾がD卿を襲う。鋼の鎧といえど限度がある。倒れそうになるD卿、しかし後ろから進む隊士達のためにも倒れるわけにはいかない。D卿は自分を鼓舞するために叫んだ。
「ハイヤアアアー!」
再び力が湧いて来て持ち直すD卿。
早紀「D卿ー!」
D卿の背後から早紀が走って来た。早紀はD卿の肩を踏み台代わりにして大きく飛び上がると、空中で横回転しながら、国士無双を放った。
ガキィーン!
地面にたたき付けられる早紀。ガトリング砲は真っ二つに破壊された。
「うおおおー!」
隊士達は叫びながら政府軍に突っ込み、大乱戦となった。

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函館山の頂上には、政府軍の隊長がいた。頭にはシャグマ(白馬の尾の毛で作ったカツラのような物)を被り、洋式の軍服を身に付け床机にどっかり座り、戦況を見守っている。隊長の所に兵士からの報告が入った。
「砦の兵に得体の知れない二人組が加勢し、こちらがかなり押されています」
隊長が不機嫌そうに答える。
「二人組?相手は少数だ。一気に全軍で押し出して………ひえー!」
話している隊長の背後から首筋にピタリと刀が当てられた。
「二人組じゃない…三人組だ」
韓信だった。韓信は函館山を背後から登り、ここにたどり着いたのだった。
「貴様、隊長に何をするー!」
兵士達が銃を構え、韓信を取り囲む。
韓信が兵士達に言う。
「動くなよ、ちょっとでも動くと隊長さんの首が飛んじゃうよ」
隊長が韓信に叫ぶ。
「お前、何が目的でこんな事をするんだ!」
韓信が答える。
「ちょっとの間でいい。兵隊達を引き上げさせろ」
兵士が隊長に聞く。
「隊長、いかがしますか?」
隊長が忌ま忌ましそうに叫ぶ。
「あーわかった。言う通りにする。全軍に引き上げの合図を送れ!」
韓信が満足そうにうなずいた。
「よろしい」

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砦の中では、蝉丸がこれからどうするか隊士達に尋ねていた。
「これからどうする?俺と一緒に政府軍と全員死ぬまで戦うか?」
皆、黙っている。一人が重い口を開いた。
「土方さんが亡くなられ、俺達は戦う気力を失いました…俺達は降伏しようと思います…」
蝉丸は静かに答えた。
「そうか…そうするがいい…」
隊士の一人が蝉丸に聞いた。
「蝉丸さんはどうするんですか?」
蝉丸が答えた。
「俺は、元いた場所に仲間と帰る」
蝉丸達は、政府軍に降伏を申し出るため砦を出たが、何か様子が変だ。外はひっそりしている。蝉丸は早紀を見つけ状況を聞いた。
「早紀ちゃん、何が起こったんだ?」
早紀が答える。
「私にもわかりません。政府軍が突然引き上げて行きます」
蝉丸が言う。
「何が起こったのか、こいつらの後を追って確かめるか」
蝉丸、早紀、D卿は政府軍の後に付いて函館山を登って行く。すると、隊長らしき男に韓信が刀を突き付けながら、坂道を下りて来るのが見えた。蝉丸が韓信に叫ぶ。
「新撰組は、降伏する事にした。俺達は現代に帰ろー!」
それを聞いて韓信が隊長に言う。
「じゃあ、もうあんた必要ないね」
隊長が叫ぶ。
「早くわしを解放しろー!」
韓信が取り囲む兵士達を見回しながら言った。
「ほらよ、受け取んな」
韓信は隊長の背中を蹴った。隊長はころころと坂道を転がり落ちて行く。倒れている隊長の下に兵士が駆け寄り報告する。
「弁天台場の砦に篭っていた兵士達は全員降伏するそうです」
隊長が顔を真っ赤にさせて怒鳴る。
「今はそんな事はどうでもいい!奴らを追え!奴らを逃がすな!」
隊長が指差す先には、スバルに乗り込み脱出しようとしている四人の姿があった。
走るスバルを騎馬隊が追いかける。スバルが急にUターンして止まった。蝉丸が屋根に飛び乗り、設置されていたディビー・クロケットを地面に向かって撃った。
蝉丸「さらば新撰組…」
ズガーン!
土煙が上がり、騎馬がひっくり返る。政府軍が再び追跡しようとしたが、もう、スバルの姿は見えなかった。

 

        

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