第二話 サマンサは何処へ(byボテン)

その日、サマンサはウキウキした気分で五本木ヘルズのドリー軍曹の執務室を訪ねた。
ぼてん・ボテンのコンビ解消以降、サマンサは、全く出番のないドリセミ・ヒロインとなっている。
それがドリー軍曹からの呼び出し……
“もしかしたら新しい仕事かしら?”
サマンサはウキウキした気分だった。

「ドリー軍曹、お久しぶり〜」
サマンサは執務室のドアを勢いよく開けた。目の前には大きく黒い空間が広がっている。
サマンサは勢いあまってその黒い空間の中に落ちてしまった。
「助けて〜」
サマンサは部屋の隅にしゃがんでいる老人に助けを求めたが、居眠りをしているのか反応はない。
何とかそこから出ようと体をもがいたが、黒い空間にどんどん吸い込まれていき、サマンサは意識を失った。
 
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「お前は何者だ」
サマンサは銃を頭に押し付けられて目を覚ました。
“ここはいったいどこ??”
旧ドイツ軍の制服を着た男が持っていた銃はMP40だった。
“なっ……何なの?ゲシュタポのコスプレ?”
ゆっくり立ちあかったサマンサは周りの風景を見て驚いた。まさに第二次世界大戦の時の古めかしい風景が広がっている。
「あっ、あのぅ……映画のロケですか?」
「ふざけるな!お前、怪しい奴、スパイだな!」
男の手がサマンサの髪の毛を掴もうと伸びて来る。サマンサは咄嗟にその手を払い避けると一本背負いで投げ飛ばす。男は腰から地面に叩きつけられ、呻き声を出して動かなくなった。
それを見た近くいた別の男がMP40を撃ってきた。
“あの銃本物〜??”
サマンサはヒップホルスターからワルサーPPSを素早く抜くと一発で射殺した。銃声を聞きつけて旧ドイツ軍の制服を着た男たちが集まって来る。
すかさずワルサーPPSで応戦したが、あっという間に7発を撃ちつくしてしまい、足もとに倒れている兵士のMP40を素早く拾うと威嚇に連射し、一目散に走った。
サマンサは、MP40の銃弾を背に古めかしい街を走って逃げた。
“夢だ、これは夢だ、夢なんだ”
サマンサは今起きていることが受け入れられなかったが、デコボコの舗道に躓いて何度も転びながら、これが夢でないことがわかっていた。
その証拠にMP40の銃弾一発がサマンサの肩を貫通していた。焼き鏝を当てられたような痛みが夢ではない確かな証拠だった。

サマンサは路地裏に身を潜め、必死に考えた。
“ドリー軍曹の執務室で黒い空間に吸い込まれて……”
サマンサにとっては考えたくないことだったが、あの黒い空間はタイムマシーンで、自分は第二次世界大戦下のドイツに来てしまったと言う結論に達した。
“そう言えばICTOの同僚のジェーンが韓信さんに時空の旅に連れていったもらったと自慢していたっけ”
“あの黒い空間は時空のトンネル……と言うことは韓信さんやドリー軍曹もここに来ていると言うことだ”
サマンサの心に希望の光が射した瞬間、MP40で武装したドイツ兵に取り囲まれた。
“韓信さん達がこの世界にいる限り、安心だ。必ず助けてもらえる”
サマンサは銃を捨てると両手を高く上げた。
「怪しい奴だ、本部に連行しろ!」
サマンサは顔面を数発MP40のストックで殴り連れられ気を失った。
 
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頭から冷水を浴びせられ、サマンサは目を覚ました。
ここはゲシュタポの拷問部屋のようだった。

「お前レジスタンスか?それとも連合軍のスパイか?」
目の前の太った女がサマンサの頬を数回か叩いた。
サマンサは椅子に後ろ手に縛られて座らされていた。MP40のストックで殴られた左目が腫れあがっている。
「何とか言いな」
太った女はサマンサの撃ち抜かれた右肩の傷口を掴むとグリグリと親指を押し込む。
グアアアァァ!!
塞がりかけてい傷口が開き、血が流れ始める。サマンサは体を捩じって逃れようとしたが、女の力が強く指は食い込む一方だった。
「ハイデ尋問官」
そこに、若い男が入って来て、太った女に声をかける。
「ゲアハルト、何かわかったか?」
ハイデと呼ばれた女は振り返りながら親指についたサマンサの血を舐めた。
「ワルサー社に問い合わせましたが、このような銃は作っていないとのことでした」
「本当か??」
「しかもこれほど精巧な小型オートマチック銃はこの世に存在しないのでは・・・と」
「連合軍の奴らの技術はそこまで進んでいたのか??」
「アッハッハッハッ〜〜〜」
サマンサはおかしくて堪らなくなり、堪え切れずに笑ってしまった。
「実は、私、21世紀から来たのよ。いいことを教えてあげる。あなた達ドイツ軍は負けるわ」
たちまちハイデとゲアハルトの顔色が変わる。
「ふざけたことを言うな!!このレジスタンスが!!」
ハイデは腰にさげた警棒を抜くとサマンサを殴りつける。
ドスッ!ウッ!ドス!グワッ!
「さあ、レジスタンスのアジトはどこだ!吐くんだ!」
「ドイツは負けるわ、いい気味だわ、ヒトラー万歳〜」
「ふ、ふざけるな!我が無敵のドイツが負ける訳がない!このアバズレが!ふざけたことを言うな!」
ハイデはサマンサの腹を警棒で突いた。
ドス!ングッ・・・
サマンサは胃液が込み上げてきた。
それを見たハイデはさらにもう一発脇腹突いた。
ドス!ングウウウゥゥ・・・
サマンサは苦悶の表情を見て、ハイデはますますエキサイトして、警棒で殴り続ける。
無抵抗のサマンサは腹、顔面、脇腹と殴られ、最後は口から血を吐きだして意識を失った。
 
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グハッ!
サマンサはいきなり冷たい水に浸けられて目を覚ました。
サマンサは裸にされ両手吊るしで大きな樽に浸けられていた。樽には大量の氷が入れられていた。
「どうだ冷たいだろう」
ハイデはサマンサの目の前に仁王立ちしていた。
「寒いわ、早く出してちょうだい」
サマンサはだんだん体温が下がってきて、ガタガタと震え始めていた。
「未来から来たお嬢さん。お前の役目は何だ。ドイツが負けると流布して国内を混乱させることか!」
「……あれはウソよ、ウソですよぉ〜」
「それならば、お前は一体何者なんだ!」
「私は……私は……」
サマンサは嘘をつこうにも、自分がいつの時代にいるのか、自分がどこにいるのか、それがわからないため、迂闊に答えれば命取りなりかねない。
とにかく韓信たちが助けに来るまで持ちこたえなければならなかった。

 

        


 

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