第一話 激突!韓信組vs毛利軍(by韓信)

「この辺りだと思うんだが…」
そう言いながら、韓信が草むらを掻き分け進む。ドリー軍曹、早紀、牧師風の男がその後に続く。
牧師風の男はボテンであった。ボテンが前を歩く韓信に聞く。
「韓信さん、時間旅行のご招待ありがとう。ところで誰に会わせてもらえるのかな?」
韓信が答える。
「なかなか面白い男です。楽しみにしていて下さいね」
一行が草むらを掻き分けながら更に進むと、前方の草むらがガサガサと揺れて糞まみれの大男が姿を現した。
ドリー軍曹が叫ぶ。
「ば、化け物〜!」
男が言う。
「お前達何者だ?毛利の兵か?」
韓信が男に声をかける。
「私達はあなたの敵ではありません。旅の者です。あなた山中鹿介様ですね」
男が身構えた。
「何故わしの名を?やはりお前達、毛利の追っ手か!」
「私達はあなたが尼子家再興のために奔走している姿に心打たれ、ほんの少しだけ力をお貸ししたいと遠くからやって来ました。道中、刀もなくてはお困りでしょう。これを友情の印に差し上げます」
韓信はそう言って、鹿介に一振りの刀を渡した。刀は古備前友成であった。鹿介は刀を受け取った。
「これをわしに?……ありがたい……あなた達を信じよう」
鹿介はそうつぶやいた。
※山中鹿介は、毛利に滅ぼされた大名・尼子の忠臣。尼子を再興すべく大国毛利に戦いを挑むが何度も破れ今回も捕まったが、厠を潜って脱走したという。
韓信「私達一行の紹介をしましょう。私は韓信」
「よろしく」
鹿介はそう言って韓信の手をぎゅっと握った。韓信はちょっとだけ嫌そうな顔をした。
韓信「こちらボテン様」
「よろしく」
鹿介はボテンの手をぎゅっと握った。ボテンは顔を歪めながら握手に応じた。
韓信「こちらはドリー軍曹」
髭に親近感を覚えたのか、鹿介はドリー軍曹を無言で抱きしめた。
「うぐぐぐ…」
ドリー軍曹はうめき声を上げながら、鹿介を抱きしめ返した。
韓信「こちらは早紀」
握手をしようと近づく鹿介に早紀が微笑みながら言った。
「よろしく。それ以上、近づかなくていいわ」
「山中様、近くに小川があります。そこで体を洗って来てはいかがですか?これ着替えです」
韓信はそう言って鹿介にドリセミのロゴ入りのジャージを手渡した。
「かたじけない」
鹿介はジャージを受け取ると小川に向かった。
ドリー軍曹「韓信さん、ひどいじゃないですか!臭い消えませんよ」
ボテン「韓信さん、今回のご招待、私でなくてもよかったのでは?」
「いゃあ、ははは」
二人に抗議された韓信はただ笑うしかなかった。
三十分程経っても戻って来ない鹿介の様子を見に、四人は小川に向かった。鹿介はもう着替えを済ませ、三日月に向かって祈っていた。「我に七難八苦を与え給え…」
その姿を見た韓信が皆に小声で言った。
「せっかくだから私達も祈っときますか」
四人は鹿介の後ろに並び、三日月に祈った。しばらくすると、遠くの方で無数の松明が揺れているのが見えた。どうやら鹿介の脱走に気づき毛利の兵が追って来たようだ。
早紀「来たようね…」
韓信が祈っている鹿介に声をかける。
「山中様、追っ手が近づいています。ここは私達に任せてお逃げ下さい」
「かたじけない」
一礼して、先を急ごうとした鹿介が振り返った。
鹿介「韓信殿、これからわしはどうしたらよいであろう?」
韓信「とりあえず、織田でも頼ってみては?」
鹿介「織田か…やはりそれしかないか」
鹿介は自分にいい聞かせるように何度も織田とつぶやいた。
鹿介「早紀殿、私の願いは成就するだろうか?」
早紀「それはわからないわ。でもあなたの行動は、きっと後世の人に理解されると思う」
鹿介「それは心強い」
鹿介はかすかに微笑むと闇の中に消えて行った。
韓信が言う。
「さあ、毛利の兵達に挨拶に行きましょう。大将は戦で負けた事がないと言われる吉川元春。手ごわいですよ」
四人が松明の方向へ走って行くと、吉川の兵と思われる三十人程の集団とぶつかった。
兵の一人が叫ぶ。
「お前達何者だ?尼子の残党か!」
韓信が叫ぶ。
「ドリセミだー!」
「ドリセミ?何者かわからんが構わん。討ち取ってくれるわ!」
兵が槍を構えて韓信に向かって突進する。韓信は小豆長光を抜いた。兵が突き出す槍をふらりとかわした韓信は、相手の腹に刀を突き刺した。
グサッ
兵がどさっと地面に倒れる。
「皆の者、あやつに鉄砲を撃ちかけよ!」
怒った吉川の兵達が韓信に向け鉄砲を撃つ。
ズダーン!ズターン!
韓信は兵の死体を素早く引き起こし、それを盾とした。銃撃が終わった瞬間、兵の中に駆け込み、数人を斬る韓信。続いて駆け込み風車で兵を倒す早紀。
兵士達を倒しながら早紀が叫ぶ。
「ボテン様、ドリー軍曹、ここは私達に任せて、先に進んで下さい!」
ボテンとドリー軍曹は、兵士達の間を駆け抜けた。駆け抜けた先には、馬にまたがった鎧の大男がいた。
男「お前達、何者だ?」
ボテンが答える。
「私達はドリセミという者です。あなたは吉川様ですね。思いもかけず戦いになってしまいましたが、私達は吉川様には何の恨みもございません。ここはお互い引く事にしませんか?」
「どこの誰かもわからぬ者に吉川の兵が引いたとあってはいい笑い者。つべこべ言わず、二人揃ってかかって来い!」
吉川はそう叫ぶと馬から下り、槍を構える。
ドリー軍曹がボテンに叫んだ。
「ボテン様、戦いましょう!」
「時間旅行の誘いがあった時から、こんな展開になるのはわかっていた。仕方ない。ボテン、お相手いたす」
ボテンはそう言いながら牧師の服を脱ぎ捨てた。下は浴衣であった。
吉川がビュンビュンと振り回す槍を二人がかわす。
ドリー軍曹が叫び声を上げながら、吉川に向かって突進する。
「はいやああー!」
繰り出される槍をくぐりながら避けたドリー軍曹は、吉川の喉元に右腕をぶち込んだ。
ドシャアーン
吉川がひっくり返る。ドリー軍曹が吉川を押さえ付けながら叫ぶ。
「ボテン様、今です!」
「はいやああー!」
ボテンは叫び声を上げながら高々と舞い上がると、吉川の喉元に膝を打ち込む。「ぐへあぁー!」
吉川は悲鳴を上げ、気を失った。
倒れている吉川を見て、ドリー軍曹がボテンに言った。
「挨拶はこのくらいでいいでしょう」
二人は韓信達のいる方に向かって走った。そこでは、韓信と早紀を恐れた吉川の兵達が二人を遠巻きに囲んでいる姿があった。
ドリー軍曹が叫ぶ。
「韓信さん、そろそろ引き上げましょう!」
韓信が答える。
「おーっ、そうしましょー!」
四人は、追ってくる気配のない吉川の兵達を置き去りにしながら草むらの中を走る。前方に紫色の光を放つ時空の穴が開いている。四人は穴をくぐった。気を取り直した吉川の兵達が後を追ったが、四人の姿はどこにもなかった。
鹿介はその後、織田を頼り毛利攻めの先方を任されるが、またもや吉川に敗れ、毛利輝元の所に護送される途中の合の渡しで斬られたという。

 

        

右クリックを禁止する