「し、師匠! それにライムさん!!」
僕の目の前にウィル師匠とライムさんが突然現れた。
絶望的な状況だった僕の心に光が差し込んだ気分だ。
しかし一体どうやって!?
「マルクが青い指輪を装備していたからここまで来れたんだ」
師匠は僕を横目で見ると、自分の左手を僕にチラリと見せた。
そこには僕の指にはめてあるものと同じ指輪が光を放っていた。
「あっ! それは……!!」
「これにはお互いの居場所を知らせる能力があるんだ。さらに、マルクが究極までピンチになったときは空間移動できるように魔力を練りこんである」
師匠の説明でようやく納得できた。
そうか……青い指輪には、魔力を増強する効果があると、僕は勘違いしていた。
階段の途中で何気なく装備しておいて良かった。
僕が身動きできないのを感じ取って、師匠に背を向けたライムさんがしゃがみこんできた。
「しかしあなたも無茶するわね。ルシェ相手に一人でこんな奥深くまで突撃するなんて」
ライムさんが僕の肩に手を置いて目を閉じる。
何かを念じるように集中力を高める。
僕の肩が一瞬赤く輝いた気がした。
「あ……つうっ!!」
僕の肩に置かれた手のひらが熱い。まるで温熱治療されているかのように。
しかし体の中に流れていたモヤモヤ感が消えて、僕は晴れやかな気分になった。
「気づかなかったんでしょうけど、淫気が体中に染みこんでたわよ?」
自分の肩に置かれたライムさんの手を見ると、紫と緑が混じったような不気味なオーラが渦巻いていた。
これが淫気……僕の体は知らないうちに淫気に汚染されていたのか。
「マルク、しばらくこのままじっとしてなさい。全快までは時間がかかるわ」
お言葉に甘えて僕は少しだけ休ませてもらいます……
ここから先の話はウィル師匠に……バトン…………タッチしま……すね…………
ライムさんが軽くウィンクすると僕の意識はゆっくりと闇に溶け込んでいった……
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僕はウィル。ここから先は僕が話を進めよう。
物語は少し前にさかのぼる。
「なぁ、ライム。『ルシェ』っていう淫魔のこと知ってるかい?」
北の国に向かう遠征キャンプ内でライムに尋ねた。
ちょうどマルクとの念話を終えた次の朝のことだった。
「ルシェ? なんなのよ、いきなり」
寒さで震えながらめんどくさそうにライムが答えてくれた。
寝起きも不機嫌だけど、寒いとさらに環をかけて不機嫌なんだよなぁ……
「いや……あのね、マルクから悪い知らせがあってさ。うちに空き巣が入ったみたいなんだよ。それがルシェっていう淫魔らしいんだ」
ライムは黙って僕の話を聞いている。
いつになく真剣な眼差しのようだけど、僕はかまわず続けた。
「それでね、リィナもさらわれたって事だからとりあえず追いかけろって指示を出したんだ…………いだぁッ!!」
閃光のようなライムの平手打ちが僕の側頭部にヒットした。
ぐわあああ! 耳がキンキンする!!
「あんたバカじゃないのっ!? ルシェは淫界参謀よ!? それなのにウィルは…………」
顔の半分だけ泣き顔の僕を見ながらライムが早口でまくしたてる。
口より先に手が出たことはさておき、状況がまずいことだけはわかった。
ルシェという淫魔はライムと同等のレベルの相手。
マルクが一人で手に負える相手ではないということらしい。
「でもリィナが連れ去られたなんて許せない。絶対に連れ戻してやるんだから」
さらに聞いたところによるとライムとルシェは同期というか……とにかくライバルだったらしい。
ライムは口技を極める精鋭部隊リップスとして、ルシェは女王の近衛兵として共に切磋琢磨した仲だということだ。
そんなルシェの名前を聞いたことでライムの闘争心に火がついてしまった。
「何がなんでもルシェには負けたくないわ。今から行くわよ!」
ライムに腕をつかまれたまま、僕は勇者一行のキャンプをあとにしたのだった……
そして青い指輪の魔力をたどってここまできたというわけ。
話を現在に戻そう。
背後でライムが淫気中和と回復魔法を使っているのがわかる。
なんとかピンチは切り抜けたようだけど、先程の淫気弾を切り裂いた指先が痛い。
触れた瞬間に強力な淫気が一瞬で体内を駆け巡ろうとしていたのがわかったので、僕は自分の神経を凍りつかせて阻止した。
(目の前にいるのはかなり厄介な相手なのかもしれないな。)
ライムの魔力がふっと背後で消える。
そしてマルクの気が落ち着いて……どうやら休息に入ったようだ。
「なんという……なんということ!!」
僕の目の前でルシェが肩を震わせている。
彼女にしてみれば勝利の寸前で水を指された形だから、怒り心頭といったところか。
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