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謎の淫魔・ルシェが立ち去った後も、しばらくの間マルクは身動き一つ出来なかった。
頭の中にピンク色の霞がかかったように思考がまとまらない。

(はやく解毒……しなきゃだめだ……)

マルクが淫気に汚染された自分の体を元通りにするためにはかなりの時間を要した。
かかった時間はそのままルシェの淫魔としてのレベルの高さを表している。

ようやく彼の指先が動き……手足の痺れが抜けきった頃には、夜空に美しい月が浮かんでいた。

(僕はなにもできなかった。と、とにかく師匠に知らせなきゃ……!)

マルクはよろめきながら、ウィルと念話するための準備を整えた。



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北の国へ向かうウィルとライムは、勇者一行と共にテント内にいた。
目的地へは順調にいってもあと3日はかかるらしい。


「私、寒いの苦手なのよ……クスン」

寒さに震えるライムをかばうように抱きしめながら、ウィルは暖かい眠りにつこうとしていた。

浅い眠りに入ったその時だった……ウィルの頭の中にマルクの声と、彼の悲しげな表情がもやもやと浮かび上がってきた。

これは念話のヴィジョンだ。

ようやく眠りについたライムを起こさないように、ウィルは上半身を起こして精神統一をした。


「師匠、すみません……リィナさんが連れ去られてしまいました…………」

本当に申し訳なさそうな顔をしている。
ウィルは弟子に言葉を急かせることなく、ゆっくりと事情を聞いた。

彼の話をまとめると、どうやらルシェと名乗る淫魔がウィルの家に侵入したらしい。
そしてリィナを連れ去り、マルクには居場所を告げて立ち去ったということだった。

ウィルは話を聞きながら不可解な点をいくつか感じていた。

ひとつはどうやってウィルの家に入り込んだのだろう……ということだ。

マルクには伝えていないが、ウィルの家は高度な結界が施されている。
並の淫魔では近寄ることすら出来ないはずだ。

ルシェという淫魔はそれほどまでに高レベルなのだろうか?

次に、リィナを連れ去ることが目的だったのか……ということだ。
それならば連れ去った場所をマルクに伝える必要はない。

なぜ自分たちのアジトを教えた??

これは明らかに罠だ。
本当の目的はマルクを敵の居城におびき寄せることなのか……それとも…………。


「…………師匠、僕の話を聞いてくれてますか?」

一通りの話を終えた後、沈黙を続けるウィルに聞き耳を立てるマルク。
悔しさと不安と焦燥が混じった声。

「んん? ちゃんと聞いてるよ。さて、どうしたものかなぁ……」

どちらにせよ、自分の家を荒らしていった淫魔を野放しにすることは出来ないな……とウィルは考えていた。

そして可愛い弟子に二つのアイテムを貸し出すことと、リィナ救出の指示を出した。

マルクは「そよ風のマント」と「青い指輪」を手に入れた!




次の日、マルクは山道を歩いていた。

もともと魔術師である彼にとって、目的地付近の村までは魔術で移動することは容易に出来た。
ただし、最終的な場所の特定は歩きまわるしかない。
彼はルシェが残していった地図を元に山道を歩いていた。

瞬間移動の魔法を使い、山をいくつか越えたところで、おそらく目的地であろう建物を発見した。
それは山奥には似つかわしくない壮麗な建築物だった。

(あんな所に! なんだあれ……)

マルクは思わずつぶやく。
透き通るような建物、まるで全てが鏡で出来ているような異形。
彼は覚悟を決めるとその建物の入り口をイメージしてから瞬間移動の魔法を唱えた。


ほどなくして透き通る建物の入り口付近にマルクの体が運ばれた。
遠くで見ていたときよりも圧倒的な大きさだった。

鏡で出来ていると感じたのは間違いで、全体的に透き通るガラスで出来ている。
目を凝らしてみると、中を歩いている人物が多数いるのがわかる。
おそらく全て敵だろう。

どうやって内部に入ろうかと思案していたところで、入り口らしき場所を見つけた。
大きな門の前に衛兵が二人いる。
甲冑を着けていて、いかにも……といった感じだ。
どうやら内部への侵入は容易ではないらしい。

しばらく様子を窺っていたら交代の時間になったようだ。
すると二人の衛兵の代わりに一人の女の子がやってきた。
先程の二人組みと比べると明らかに弱そうな、可愛らしい女の子の姿をしている。

(よし、もう少し様子を見たらあの子をすり抜けて内部に潜入しよう!)



選択肢

時間が無い。急いで少女を倒す。

慎重にチャンスを待つ。

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