決着
観客の目が二人の戦いの速さに慣れてきた頃、急にあさぎがバックステップで 間合いを離す。 「あの状況からローキック……流石だね」 言葉とは裏腹に僅かに残念そうな口調であさぎが勇悟に告げた。 だが、勇悟はその言葉に応える事もなく肩で息をしている。 「でも白黒つけた方が良さそうだね」 淡々とした口調であさぎはそう言うと再び間合いを計り始めた。 勇悟は自分と殆ど差がない体格と女というハンディを感じさせない程の強さを 持つあさぎに格闘家として憧れていた。 勇悟はこの闘いで勝てなくてもずっと追い続けていた背中に触れる事の出来る 距離に居る事を確認したかった。 しかし、現実は違う。 あさぎは勇悟のローキックが攻防に耐えきれず苦し紛れに放ったものだと気付 いていた。 あさぎは勇悟に余力がない事を悟り決着をつけると宣言してきた。 勇悟は追いかけてきた背中が未だ遙か遠くにある事実を突き付けられていた。 あさぎと勇悟の視線が絡み合う。 その瞬間、あさぎは一気に間合いを詰め勇悟の懐に飛び込んだ。 迫り来るあさぎの瞳に勇悟は暗い深淵に飲み込まれそうな錯覚を覚える。 勇悟はそんな錯覚を振り払うべく残る力を振り絞って右ストレートを繰り出し た。 だが、その拳の先には既にあさぎは居ない。 あさぎは勇悟のストレートをダッキングしてかわしながら左のボディフックを 放っていた。 あさぎのリバーブローが勇悟の右脇腹に食い込む。 拳を叩き付けられた衝撃と痛みが勇悟の肝臓と心を蝕む。 勇悟はあさぎが格闘家として特別な存在だと思い込んでいた。 あさぎになら負けても仕方がないと思い込んでいた。 しかし、実際に闘い実力の差を見せ付けられ痛みを感じるとそんな思いは消え 失せ、悔しさだけが込み上げてくる。 そんな思いが勇悟の激痛に耐えかね崩れ落ちそうな膝を食い止めた。 ダウンは免れたもののその場に立っていられず勇悟は後ろへとよろめく。 そこへあさぎが一歩、踏み込み右の拳を勇悟の顎へ目掛け突き上げた。 顎を斜め下から突き上げられ、衝撃が脳へと突き抜ける。 勇悟はその一撃で全神経が悲鳴を上げ崩れ落ちた。 勇悟をダウンに追い込んだボディブローからのスマッシュ。 それは勇悟があさぎとの攻防で見せたコンビネーションだった。 硬いマットに叩き付けられた勇悟の身体を微かに残った意識と格闘家の本能が 突き動かし起き上がろうと僅かに頭を上げる。 そこへあさぎは勇悟にまたがり重心を落としながら前傾姿勢となりフックを繰 り出す。 一発、二発、三発、あさぎの拳が勇悟の頬をとらえ、その度に頭蓋骨がシェイ カーの様に脳を揺さぶる。 あさぎは拳に伝わる感触が変わり勇悟の意識を刈り取った事を確信すると拳を 納めた。 気を失い痙攣を繰り返す勇悟。 そんな勇悟の姿をあさぎは心配そうな表情を浮かべながら見下ろした。 |
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