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試合開始




薄暗い闘技場に立てられたゲージ。
その中で一組の男女が対峙していた。
男は小柄で童顔、まるで格闘家には見えない青年、坂下勇悟。
だが、その強さを疑う者はこの闘技場では居ない。
小柄な体格、そんなハンディを補うために勇悟は様々な技を身に付け難敵を倒
しここに立っている事は誰もが知っていた。
「とうとう、ここまで来たね……勇悟」
髪を金色に染め上半身にタトゥーを施した女、貴倉あさぎが目の前に立つ勇悟
にら声をかける。
「あさぎさん、俺はこの日の為に闘ってきました……よろしくお願いします!」
あさぎの言葉に勇悟はそう応え一礼をする。
「ちゃんと楽しませてよ」
一礼する勇悟に対しあさぎは目を細めながら問いかけた。
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そんなあさぎに対し勇悟は無言で構えを取る。
あさぎはその様子に自分も構えを取った。

互いに間合いを計りすり足で円を描く二人。
そんな静の闘いから動へ闘いの様相を変えたのは勇悟が先だった。
一気に間合いを詰め立ち位置を変えながら細かく鋭いジャブを繰り返し放つ勇
悟。
対するあさぎは勇悟が自分の死角にに回り込む前に勇悟の動きに対応し、その
ジャブを次々とパーリングで弾いていく。
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勇悟はあさぎの対応に改めて感心させられた。
一度、見ただけの技をその場で完全に再現する観察力。
その観察力はあさぎのディフェンスの高さに寄与していた。
「勇悟がそう来るなら、私も付き合ってあげる」
勇悟のジャブを防ぎながらあさぎは不敵な笑みを浮かべるとジャブを繰り出し
た。
そんなあさぎのジャブを勇悟はウィービングでかわすとストレートを放った。
腰が入り体重の乗ったその一撃をあさぎはパーリングでは防ぎきれないと判断
しバックステップで避ける。
勇悟はここぞとばかりにあさぎに食らい付いた。
それを皮切りに拳の応酬が始まる。

ジャブ、ストレート、フック、アッパー、様々なパンチがこめかみ、顎、肝臓、
鳩尾、胃、腎臓と互いの急所を捉えるべく乱れ飛び、パーリング、ウィービン
グ、ダッキング、サイドステップ、バックステップと言った様々なディフェン
ステクニックが披露される。
その間、互いのパンチは相手を捉える事はない。
アウトサイダー始まって以来のハイレベルな攻防にこの試合を見に来た好事家
や控えの選手達が息を呑む。
「流石ですね、あさぎさん。俺のパンチが一発もあたらないんですから」
自らの拳を振るいあさぎの拳を防ぎながら勇悟は笑みを浮かべる。
「勇悟もこそ余裕あるじゃない。それじゃ、ペースを上げるからついて来てよ」
あさぎの言葉に二人の拳が加速する。
だが、その拳は相変わらず互いを捉える事はない。
やがて二人の攻防はボクシングの世界戦ですら目にかかれない領域に達してい
た。


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