1話 黒いロングコートの女
早紀は、黒髪ロングで、おっとりとした顔付きの美人であった。服装は夏だというのに黒のロングコートを着ている。
早紀の素性はわからない。わかっているのは、韓信の友人であるという事だけだ。
早紀の事務所は、U楽町にあった。隣りには立ち食い蕎麦屋があり、電車が通るたびに天井が揺れるような粗末な作りであった。
社員は派遣社員のジェーンが一人いるだけだった。ジェーンはドリー軍曹の一門で金髪巨乳のアメリカ人だ。
事務所で、早紀とジェーンが二人だけで会議をしていた。
ジェーン「所長、この会社、なんでも屋の割に、人が少ないですよー。男手欲しいですよー」
早紀「そうね」
ジェーン「韓信さん、呼びましょうよー」
早紀「彼は駄目。今、蟄居中。成田で派手に暴れたらしいわ」
ジェーン「誰かいないかなー」
早紀「理想は、真田幸村ね」
ジェーン「ユキムラ?それ誰ですか??」
早紀「知らないの?戦国時代の武将、真田幸村よ」
ジェーン「また所長の夢物語が始まったー。そんな昔の人、どうやって連れて来るんですかー?」
早紀「まあ、あなたと私だけでは無理な話よ…それより、現代にも英雄と呼べるような男が一人だけいるわ。それは甚兵衛様。私、彼を訪ねてみようと思う」
ジェーン「甚兵衛様なら知ってます。その役目、私に任せて下さい!」
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ジェーンが根来の甚兵衛様の屋敷に着いて門を叩く。
ジェーン「甚兵衛様、開けて下さーい!」
「はい、どなたですか?」木戸を開けて、甚兵衛様が出て来た。
(あっ、外人だ…)
ジェーン「私はジェーン、韓信の友人、早紀の代わりに参りました。」
甚兵衛様「それで、ご用件は何ですか?」
ジェーン「今回の私達の仕事に甚兵衛様のお力をお借りしたいのです。」
甚兵衛様「お断りします。韓信さんの友人だからといって、見知らぬ人にひょこひょこついていくほど私はお人よしではありません。お引き取り下さい。では…」
背中を向けた甚兵衛様に、ジェーンが叫んだ。
「待って下さい!私は、ドリー軍曹の一門です!」
甚兵衛様がピクリとした。ジェーンが一冊の本を取り出す。
ジェーン「これは、ドリー軍曹の原作本です!」
甚兵衛様は、ごくりと息を飲み、振り返って言った。「これも何かの縁かもしれない。あなた達に協力しましょう」
ジェーン「ありがとうございます!」
甚兵衛様「それで、今回の仕事とは?」
ジェーン「よくわかりませんが、ユキムラの救出とか言ってました。」
甚兵衛様「…?………?…こらーっ!からかわないで下さい」