第四話 師弟

三日目も拷問は続く。ジェーンは木馬に乗せられていた。オータムが言う。
「ただの木馬責めだと思うなよ」
ナックがジェーンの腹にロープを巻き付けた。ロープの一方の端は壁に結び付けられており、もう一方の端は滑車に繋がっていた。オータムが叫ぶ。
「やれ!」
ナックが滑車をギリギリと回す。ロープが巻き取られ、腹にぐいぐいと食い込んでいく。腹に血がにじみ、大きな悲鳴を上げるジェーン。
「あがあぁぁぁーっ!」
ナックが叫ぶ。
「白状しろ!」
ジェーンが激しく首を振ってそれを拒否した。緩めては巻き取られ、巻き取られては緩められるが何度も続いたが、決してジェーンは白状しようとしない。
今度は、オータムが蝋燭の炎でジェーンの乳房をあぶった。
ジジ…ジジ…
「ひぃぎゃあああ…」
悲鳴を上げながらも耐えるジェーン。
かっとなったオータムがジェーンの両肩を掴み激しく木馬に押し付けるが、それでもジェーンは耐え、泣きながら叫んだ。
「殺すなら、一思いに殺せ!」
不意にオータムがナックに言った。
「もうやめだ。飽きた。この女はもう殺す。私の部屋から刀を持ってこい」
「わかりました」
ナックは答え、ドアを開け部屋を出ようとする。
グサッ!
ドア越しにナックの腹に刀が突き刺さる。刀を抜いて韓信がゆっくり部屋に入って来た。
「お邪魔しますよ」
ナックがオータムに苦しそうに縋り付く。
「大佐…痛い…何とかして…」
オータムが錯乱しながら、ナックを突き飛ばす。
「えーい、私に近づくな!」
オータムは平静を装い、韓信に丁寧に話しかける。
「君、落ち着いてくれ。まずは話し合おう。ウイスキーでも飲むかね」
オータムはウイスキーを取りに行くふりをしながら、机の上の拳銃を素早く手にすると、叫びながら韓信に向けて拳銃を撃つ。
「死ねこらっ!」
ズキューン!
弾丸が韓信の頬を掠める。韓信が小豆長光を素早く振った。
ゴロン!
オータムの首が床に転がった。
韓信がジェーンの拘束を解き始める。
ジェーン「あなた韓信さんでしょう?」
韓信「ああ、よくわかったね」
ジェーン「いつもドリー軍曹から聞いてます。ドリセミには一人妙な殺し屋がいるって、あれ?殺人鬼だったかな?」
韓信「どちらでも、お好きな方で。さあ拘束が解けた、脱出するぞ」
先を急ごうとする韓信を、ジェーンが呼び止めた。
「あの、服がないんですけど…」
「しょうがないな」
韓信はそう言いながら、首のないオータムの死体から軍服を剥ぎ取ると、ジェーンに渡した。
ジェーンが軍服を着ながら言う。
「これブカブカだし、血でベトベトなんですけど」
「贅沢言うんじゃありません」
韓信は軽くジェーンを叱った。

二人は敵のアジトを脱出して、ひとまず国境近くの廃ビルに身を隠す事にした。部屋の床に座りながら、話をする二人。
ジェーンが言う。
「私、早紀さんと過去の大坂を時間旅行したんですよ」
「ああ、聞いてる。大活躍したんだってね。これご褒美にあげるよ」
韓信はそう言って、背中に背負っていた刀をジェーンに渡した。
ジェーン「これ何ですか?」
韓信「名刀、大般若長光だ」
ジェーン「私、刀の使い方わかんないんですよね。韓信さん、教えてくれますか?」
韓信「ああ、ここを無事に脱出できたらね」
その時、ビルの入口の方で兵士達の話す声がした。足音がこちらに近づいて来ている。
韓信「来たようだ」
拳銃を持った八人の兵士がドアを開け突入して来る。中には誰もいない。
兵士が次の部屋の捜索に後ろを向いた瞬間、天井にへばり付いていた二人が飛び降りて来る。一瞬で三人を刺す韓信。
ジェーンも刀を抜いて必死に振り回すが当たらない。韓信が叫ぶ。
「振り回すな、刺すんだ!」
ジェーンが突進して来る兵士を二人まとめて串刺しにする。
向かって来る兵士達を次々に斬り倒して、外に出る韓信とジェーン。
遠くに真っ赤なスバル360が止まっているのが見える。
韓信「来たな、予定通りだ。ジェーン、あそこまで走るぞ」
ジェーン「はい」
二人に追いついた兵士が、ジェーンに向かい警棒を振り下ろす。ジェーンは急に振り返ると刀を抜き、兵士の腹を刺した。
グサッ!
再び走り出す二人。
韓信「ドリー軍曹の嘆く顔が目に浮かぶようだよ。私はジェーンをこんな殺人鬼に育てた覚えはないってね」
「そうかもしれません」
そう言ってジェーンは笑った。
二人を乗せたスバルは猛スピードで走り去り、この国を後にした。 

 

(終)

 

    

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