第一話 潜入

それは核武装国Q国の亡命者からの情報だった。
軍事国家として名高いL国がQ国の技術提供を受けて核兵器の開発をしているというものだった。
Q国は亡命者の出鱈目な情報と一蹴し、L国は沈黙を貫いている。
特に肯定も否定もしないまま、核開発を成功させて核保有国に名乗りを上げる目論見だろう。
しかし、Q国から核物質を積んだと見られる船舶がL国の港に入ったことを、米国の軍事偵察衛星が確認していたことで、疑惑は深まる一方だった。

業を煮やしたICTOは、諜報部員を使って核施設の場所を特定し、完成する前に破壊する作戦を立てた。
ジョーンズ大佐はジェーンに調査を命じた。ジェーンはL国に旅行者として潜入した。

L国は至る所に軍隊や警察官が配備されていて、外国人とL国の国民の接触が監視されていた。
想像はしていたものの、L国のガードは固く、核施設の情報を収集するのは困難だった。
そこでジェーンは秘密地下核施設の建設をしていると噂のある丘陵地帯に行こう試みたが、観光客が立ち入れる場所は厳しく制限されていた。
観光客が行かれる場所は都心部に限られ、人里離れた丘陵地帯へは近づくことすらできなかった。

L国は夜8時以降の外出を禁じられていた。旅行者はホテルのラウンジで楽しむしかなかった。
ジェーンは意を決して深夜に丘陵地帯まで行ってみることにした。
ホテルの地下の駐車場に車が数台あって、それを拝借することにした。

深夜0時。街は死んだように寝静まっていた。
ジェーンは部屋を抜け出し、非常階段を使って下に降りると駐車場へ急いだ。
ICTOから支給されたオールマイティ・キーで車のカギを開け車に乗り込むとキーを差し込むとエンジンをかけた。
プァアアアアアアアア〜〜〜〜 
大音量でクラクションが鳴り響いたがエンジンは掛からなかった。
車に向けていくつものスポットライトが当てられ、AK74を持った警察官に包囲された。
ジェーンは小型ピストルP230の収まったショルダーホルスターのホックを外し、いつでも銃を抜ける態勢を取った。
「女、降りろ」
ジェーンが座る運転席側に立っている赤い腕章の男が言った。
ジェーンはもう一度セルを回したがエンジンのかかる手答えはなく、もう一度クラクションが鳴った。
“こうなったら旅行者を装うしかない”
ジェーンは、ゆっくりとドアを開けると車を降り、両手を高く上げた。
「後ろを向いて車に両手をつけて足を大きく開け」
赤い腕章の男が言った。ジェーンは言われた通りにした。

 

        

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