静かに星が輝く夜だった。
淡く青い光を放ちながらゲートが開いた。
ある場所からある場所への瞬間移動に使う高位の魔術。
それらを「ゲート」と呼ぶ。
しかしそのゲートは開いてから数秒もしないうちに再び閉じてしまう。
おそらくこの短い時間で何が起こったのか、理解しているものは周囲にはいないだろう。
3匹の凶悪な淫魔が地上に降り立った。
周囲を包み込む闇に紛れて淫魔たちが目指したのは、近くの山のふもとにあるレンガ造りの建物だった。
そこは元々彼女たちの仲間である守護淫魔が占拠していた場所。
今は人間たちが新たに建物を作り直して使用している。
だが淫魔たちの目的はその館を奪い取ることではなく、館に出入りする人間たちを強襲することにあった。
レンガ造りの立派な建物には2人の警備兵を除く十数人の若い男たちが眠っていた。
彼らは皆、スライムバスターの候補生だった。
あっさりと警備をすり抜け、館の中に滑り込んだ淫魔たちは
お互いに無言で目配せをすると建物の各階に散らばった。
それぞれのフロアは中央の階段を挟んで6つずつの部屋に分かれている。
館の左右には非常階段があるが、ほとんど使用されていない。
淫魔たちは各部屋を回り、男を見つけると枕元で十秒程度じっとして部屋を立ち去った。
そしてまた次の部屋へと向かい、同じように男の枕元に立つ。
じっとしている十秒間の間に、淫魔たちはゆっくりと呪文を詠唱していた。
「うっ……あ、あああぁぁ……」
淫魔が去ってから一分もしないうちに、男たちは皆悶え始める。
スライムバスター候補生たちは、恍惚や脱力感をたっぷりとその顔に浮かべては再び悶えるという行為を何度も繰り返した。
数分後、3匹の淫魔たちは館の入り口に再び集結していた。
(ヒュプノ、首尾はどうだ?)
(私のほうは問題ない。全員夢の中に溺れている…………)
(ターナの新しい術の効果が絶大だとはいえ、他愛ないものだ……)
そんな会話を視線だけで交わしてからコクリと頷いた。
相変わらず館のいたるところで快楽をむさぼる男たちの声やベッドの軋みが聞こえる。
淫魔たちはこの館にいる男性全員に新開発の淫術を施した。
対象者の夢の中に入り込み、
あらん限りの淫らな光景を魔力に乗せてループさせるという醒めない悪夢。
最終的には標的を強制的に何度も夢精させる邪悪な魔法。
睡眠という無防備な状態では彼女たちの魔法攻撃を回避することは出来ない。
対淫魔の訓練を受けたものならば夢を破って起き上がることも出来よう。
だが今夜はそれすら許されない状態であった。
3匹の淫魔たちの中で、敵を眠らせる魔法に長けたもの……淫魔ヒュプノがいたからだ。
スライムバスター候補生たちの研修所を兼ねたこの館は、
たった3匹の淫魔によって陥落しようとしていた。
「なかなか見事な腕前だわ」
「「「!!!」」」
成功の余韻に浸っていた彼女たちの背後から響き渡るクールな声
あらぬ方向から声をかけられて驚き、振り返る淫魔たち。
自分たちが下りてきた階段の上に、一人の女性が立っていた。
(バカな……!)
淫魔ヒュプノはここに突入する前に、館全体に眠りの魔法をかけた。
それは間違いない。とびきり強力な魔法をかけたのだ。
「こんな短い時間で静かに全員をイかせるなんて、あなたたち何者?」
だが目の前に現れた女性は魔法の効果など微塵も感じさせない。
明確な敵意を持ってヒュプノたちに語りかけてくる。
「なぜこの空間で眠らずに起きていられる……?」
冷静さを装いながら、淫魔ヒュプノは大きな銀色の瞳で相手を見据えた。
その背後ではもう2匹の淫魔も身構えている。
「確かに眠い夜だわ。でもね」
ヒュプノに問いかけられた女性は階段の上から滑るようにフロアに降り立つと、その赤く輝く瞳でにらみ返した。
「こんな怪しい雰囲気で眠れるほど、甘い生活なんてしてないわ」
切れ長の瞳と赤みがかかった茶色の美しい髪。
女性から見てもバランスの取れたスレンダーな身体。
そしてどこかで見たことのあるような顔立ちと、真紅の腕輪。
何よりも不気味なのは背後に味方が大勢いるわけでもないのに、
あくまでも強気な雰囲気をゆるがせないところだった。
「名乗りなさい。あなたたちは誰?」
この館の男たちをあっさり夢の世界に押し込んだ3匹の淫魔は
間違いなく歴戦のつわものである。
だが3匹の淫魔は突如現れた目の前の女に圧倒されていた。
「私はターナ。至高の淫魔術研究家。」
「我が名はヒュプノ。強き人間よ、お前こそ何者だ?」
「…………」
3匹目の淫魔は口を閉じたまま名乗りもしなかった。
まるでくノ一のように頭部を黒い布で隠し、口元までも覆い隠している。
だが布の隙間からチラリと金色の髪が見え隠れしている。
「私? とりあえず…………あなた達の敵よ」
ヒュプノたちをにらむ女性がそう言った瞬間だった。
真っ赤な粘体が彼女の体からあふれ出した!
「私はライム。あなたたち全員をイかせる前に名前ぐらいは教えてあげる…………」
館の入り口の狭い空間に殺気がみなぎる!
自分に向けられたターナやヒュプノからの敵意など無視して、静かに身構えるライム。
「ふんっ」
まるでサナギから蝶が脱皮するように、
ライムの背中から2体の分身が素早く飛び出して左右に降り立った!
「分身だと!? 貴様、スライムか!!」
「ご名答。これで一対一ね。逃がさないわよ」
「くっ……」
そしてライムとその分身から開放された真っ赤なオーラをみて、
無意識にヒュプノは一歩下がってしまう。
(こいつはかなりの相手だ。ここはひとまず逃げて様子を見るべきか)
だが弱気になったヒュプノの細い肩をターナがしっかりと押し戻した。
「ヒュプノ、私が作ったアイテムがあればこんなヤツ恐れる必要などない!」
「そうだな……ありがたく使わせてもらおう、『双頭の刃』を」
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