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ここは転職の神殿付近の小さな家。
早朝だというのに台所に一人の男が立っていた。
彼の名前はマルクという。

「スライムバスターになるためには色んなスキルが求められるとは聞いていたけど」

昨夜の雨が嘘のように上がり、今日はいい天気になりそうだ。
空が明るくなってきた。もうすぐ夜明け。

師匠であるウィルの恋人・ライムのいいつけでマルクは朝から紅茶ケーキを作らされていた。
弟子入りしてからというもの、彼は魔術よりも何よりも料理の腕前が上達した。
今ではこの家の総料理長である。

マルクは弟子入り初日にライムの手料理をたべて体調を崩してしまった。
(ライムに『なんて貧弱な男!』と逆切れされたらしい)

それ以来、炊事洗濯係りを命ぜられた。
もともと料理は得意であったこともあり、厨房を仕切るようになった。
ウィルもライムも食事に関してはマルクに頼りっきりである。

「いい香り。朝が寒いとなぜか紅茶がうまく出るよね。」


・・・ドタドタドタドタ!!

台所に向かって猛然とダッシュしてくる足音。




「マルクくん、たいへんだよー!」

足音の主はこの家のもう一人の住人。
名前をリィナという。
ちなみに彼女は人間ではない。
スライムの淫界からやってきたライムの妹分である。

「どうしたの?リィナさん」

「クリスマスの日に世界中の淫魔が集まってBF選手権をやるんだってさ!」

大きな目をくりくりさせてリィナは楽しそうにマルクに語った。
彼女の手のひらには何かが握り締められていた。
先ほど新聞を届けにきた郵便鳥がリィナに直接手渡したのかもしれない。

「それは大変だけどまだ時間ありますよね?なんでそんなに焦ってるの?」

「ウキー!もうすぐじゃないっ!!リィナもお祭りに参加したいのっ」

なるほど、BF選手権はおまつりだ。
クリスマスまであと二週間ある。

しかしお祭り大好きなリィナである。
今からきっと胸がはしゃいでいるのだろう。
とにかくBF選手権にリィナは参加する気満々だということはわかった。

「リィナ、今回もがんばって100人斬りしちゃうかもっ!!」

しかも参加者とBFする気満々である。
リィナは以前、ゴジョウ大橋という場所で開かれたイベントで100人の男たちを昇天させたことがある。
マルクは彼女に目をつけられるであろう参加者達に軽く同情した。

「お、お祭りですか…いってらっしゃいませ。」

「何いってるの!?マルクくんにも招待状がきてるよぉ?」

マルクの言葉をさえぎるかのようにリィナは握り締めたものを彼に突きつけた!
そこには大会主催者・ミマール氏の字で「リィナ殿、マルク殿」と書かれていた。

「な、なんで…!?」

よく見ると「ライム様、ウィル様」と書かれていたところに二重線が引かれている。
きっとどこからか圧力がかかってミマール氏も変更を余儀なくされたのだろう…

「マルクくん、何でもいいからリィナと一緒にきてぇ……ねっ♪」


(うっ…断れない……)

上目遣いで自分を覗き込むリィナを見て、マルクは思わずうなづいてしまった。
パジャマの中でふわふわ揺れる胸元と、愛らしい顔つきを朝から間近で見せ付けられて、軽く魅了されてしまったのだ。


後ろのオーブンから焦げ臭いにおいが流れてきた…


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