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「その赤い粘体に触れてリィナのことを思い出して。この中で最後までリィナのことを想っていたのはあなたなのだから」


ルシェの作り出した高密度の淫気を含む分身をベースに、リィナの心を融合させる。

これがブルーティアラの効力だ。

そしてさらにリィナを良く知るものの記憶があれば……


マルクは恐る恐る光り輝く粘体に手を置いた。思っていたほどの熱さや衝撃は無かった。

むしろ心地よい。まるでリィナを抱きしめているような気持ちだ。


(リィナさん、もう一度僕の前に!!)


マルクは両手を粘体の肩に当たる部分においた。そしてリィナと過ごした日々を思い出した。


初めて会った日のこと、毎日の特訓、海辺での事件……

マルクの長所を丁寧に引き出してくれたのはリィナだった。

そんな彼女にひそかにマルクが思いを寄せていたのも当然な成り行きだった。


(リィナさん、もう一度会えたら言いたいことがあるんです。だから…………だから!!)


マルクは無意識に涙を流していた。

純粋にリィナのことを思えば思うほど、胸が苦しくなってくる。

ルシェに操られた彼女を倒してしまったときの、最期の言葉を思い出す。


『ごめんね、マルクくん……』


ぶんぶんと首を横に振る。熱を帯びた粘体を抱きしめながら。


(悪いのは僕です。リィナさん、戻ってきて!!)


初めは真っ赤に輝いていた念体が真っ白な光を放ち始めた。

周りにいるウィルやルシェが目を覆うほどのまぶしさだ。

その中心にいるマルクの思いが頂点に達したとき、周囲を照らしていた光が徐々に収まっていった。



「も、もうダメ……」

ブルーティアラの宝珠の輝きも徐々に弱くなり、色も元の青に変化した。

平常時に戻ったティアラは、キイーンと高い音を数回発してから持ち主の下へ飛び去っていった。


全魔力を使い果たしたライムが崩れ落ちそうになるのをウィルが受け止めた。

そして彼女をいたわるように回復魔法をかける。ライムの命に別状はない。


無事を確認したウィルが視線を戻すと、そこにはマルクに抱きしめられたリィナの姿があった。



「ほえっ、マルク……くん? やだっ! あたしハダカっ!?」


きょとんとした表情で目をパチパチさせるリィナ。

さっきまでとは違う確実な手ごたえを感じたマルクは慌ててリィナの顔を見た。

つややかな明るい色の髪、少したれ目の大きな瞳、可愛らしい唇、柔らかで大きめの胸……


「リィナさん! やった! 戻ってくれたんだね!!」


マルクは興奮して再び彼女を抱きしめた。思わず腕に力がこもる。


「ふぎゅう〜〜、苦しいよマルクくん」


リィナは彼の背中をポンポンと叩いた。

窒息死直前で彼の腕から解放されたリィナは周囲を見て驚く。


「あー、ウィルさんがいるー!? ルシェさまとライムお姉さまも?? いったいどういうオールスターなのぉ???」


順を追ってマルクが状況説明をした。


はじめはフンフンと聞いていたリィナだったが、自分が一度死んだことにはさすがにショックだったらしい。


「あ、あたし一度死んじゃったんですかぁ……」


「しかもマルクに倒されたのよ、あなた」


それを聞いてなぜかさらに落ち込むリィナ。
少し回復したライムが言った。
どうやら彼女は体より先に口から調子が戻っていくらしい。


「そ、それは言わないでください……」


「でもほら、元に戻ったからいいんじゃない?」


ルシェとの死闘を演じたとは思えない軽さでウィルが口を挟んだ。

とりあえずリィナが生き返ったことでウィルたちが明るさを取り戻したことだけは確かなようだ。


「ところで僕が負けたらどうなってたわけ?」


腕の中でぐったり気味のライムに問いかけるウィル。


「特に考えてなかったけど、あたしスライム界に逆戻り。そして一生ただ働き」


サラリと凄いことを言いのける彼女を見て、ルシェがさらに問いかける。

彼女はまるで尊敬のまなざしでライムのことを見ていた。


「そこまでウィル様のことを信じてたの? ライム」


「まあ、勝つためのヒントもあげたし。簡単に負けはしないと思ってたわ。万が一負けたら、ルシェより先に目いっぱい犯しつくしてたけどね」


なんだかんだ言いつつライムはウィルを信頼していた。

「自分の愛した男が自分以外に負けることは許されない」という彼女独特の理屈もあるわけだが……


話をしながらライムはウィルの腕からすり抜けた。

さすがに回復が早い。もう立ち上がれるようだ。


「とにかく良かったじゃない。みんな無事だしさ! ははっ」


「ホントにマイペースよね、あなた……」

ウィルを見つめながらライムはため息をついた。




ウィルとマルクがリィナの復活を喜んでいる最中、ライムはルシェの腕をぐいっと引っ張った。

二人は部屋の隅にいって内緒話をしていた。


(ルシェ、あんたさっき「ウィル様」って言ったよね…? まさか彼に惚れたの!? 絶対渡さないわよっ!)


普段はクールなライムが口を尖らせている。

困惑と動揺を隠せないといった表情でルシェに語りかけている。

その様子はルシェを楽しませた。

ルシェがしばらくみないうちにライムは表情が豊かになっていた。


「さぁ? どうでしょう」


いたずらな瞳でライムに返事をするルシェ。

それからクルリと背を向けてウィルたちのほうを見た。


「ちょ、ちょっとぉ!! ダメって言ったらダメなの!!」


ライムより先にウィルに出会っていたなら、きっと自分もライムのように彼を好きになっていたかもしれない。ルシェはライムのことをうらやましく思った。


(相変わらず欲張りですねライム。でも今回だけは身を引いてあげますわ)


淫女王と命をかけて取引するほどの度胸は自分にはない。

ルシェはもう一度ライムのほうを向いた。


「ウィル様とお幸せにね」


「あー! また言ってる! ちょっとルシェ!!」


にっこりと上品に微笑みながらルシェは自分の部屋へ戻っていった。




後年、ルシェは仲魔たちからウィルについて聞かれたときにはこう答えている。


「彼はスライムバスターというよりはスライムマスター。あの優しさで責められたら女王様でさえ勝てないかもしれない」









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