晴れ渡る夏空の下、リィナとマルクは近所の森を抜けた公園に遊びに来ていた。
さわやかな天気とは対照的な荒れ模様のリィナを慰めるためにマルクは苦心していた。
「だってしょうがないさ、師匠にはライムさんがいるんだから」
「そんなのわかってるのぉ!」
彼の言葉に真っ赤になって反論するリィナ。
ここにきてからすでに何回もこのやり取りを繰り返している。
(はぁ……)
マルクは今日何度目かのため息を吐いた。
「ぶー! リィナがこんなに猛烈にアタックしてるのにウィルさんてば冷たすぎですぅ!!」
自分の隣で頬をパンパンに膨らませるリィナを見て、マルクは自分の師であるウィルのことを不憫に思った。
もともと女性からの願い事を断りきれない性格のウィルである。
可愛らしいリィナの言うことならなおさら断れない。
そんな師匠が困り果ててるのを見かねたマルクはリィナの説得役を買って出た。
しかし状況は一向に好転しない。
「リィナを二番目の奥さんにしてくださいって言ってるだけなのに、こんなに断り続けるなんておかしすぎますぅ!」
聞けば昨日の夜、彼女はウィルに向かって(数回目の?)告白をしたそうである。
しかしウィルは告白を聞いた瞬間にしどろもどろになりながらも断りの意思表示をしたらしい。
彼女が純粋に彼を慕う気持ちもわからないでもない。
一度ならず二度までも自分の命を助けてくれた異性にすべてをささげたいというリィナの気持ちは純粋だ。
しかし、純粋であろうと無かろうとリィナが言い寄ってくるたびに、ウィルはその夜ライムから厳しい追及を受け続けるのだ。
(師匠とライムさんのためにも、ここはひとつ僕が何とかします!)
マルクは心の中で何度目かの誓いを立てた。
そして今度こそはと思い切ってリィナに向かって語りかけた。
「リィナさんちょっといいですか!」
「なぁに? マルクくん」
マルクはリィナの正面に回りこんだ。
そしてまっすぐに彼女を見つめながらこういった。
「リィナさんが師匠に好意を抱くのはわかります。でも、師匠にも大事な人はいるんです」
「もうっ! またライムお姉さまのことをいうつもりなのぉ?」
「そうじゃないです! 聞いてください」
マルクは一呼吸置いてから、リィナの目をじっと見つめた。
彼女のトロンとした大きな瞳の中には自分の姿が写っていた。
「じつは師匠と同じように、僕にも大事に思っている人がいます」
「ほええっ!? 誰のこと? 誰っ???」
彼を見つめるリィナの目が突然キラキラと輝く。
年頃の女の子が恋愛話に夢中なのは人間も淫魔もスライムも共通のようだ。
言葉を一つ一つ選びながら慎重にマルクは語り続ける。
リィナも彼の気迫に押されて今回だけはおとなしく聞き入っていた。
「今まで言えなかったけど、僕の大事な人はあなたです。師匠の二番目の奥さんじゃなくて、僕の一番の人になってください。お願いします!」
言い終わるや否や深々と頭を下げるマルク。
「……!」
二人の間に沈黙が訪れた。リィナからの返事はない。
(とうとう言えた! でも、リィナさんは僕のことをどう思っているんだろう)
しかし告白の後、津波のように不安がマルクの心に押し寄せてきた。
「……」
まだ返事が来ない。
(ひいいいいいいぃぃぃ! やばい、緊張してきたぁ)
ますます不安になるマルク。
しかし一度口から出た言葉は引っ込められない。
彼は迷いながらもゆっくりと頭を上げた。
そしてドキドキしながらリィナのほうを見ると、彼女はぼんやりと斜め上のほうを見つめていた。
「リィナ? リィナさん?? おーい!!」
彼女はどこか別の世界に飛んでいってしまったかのような表情をしていた。
マルクの呼びかけでようやく意識を取り戻したリィナ。
「マルクくんの……えっ、えっ?? あた、あたしなのぉ!?」
今度はさっきとは違った意味で顔を真っ赤にするリィナ。
いつもと違うあわてっぷり。
その表情はマルクを少し安心させた。
「ね、ねえ! マルクくん、あたし淫魔でスライムなんですよぉ?」
そんなのわかってる。マルクは大きく首を縦に振った。
「あたしってドジだし、お料理だって上手じゃないよ!」
それも知ってる。別にかまわない。
再びマルクは大きく首を縦に振った。
「だからぁ、エッチとかデートのときにいきなり寝ちゃうかもしれないよぉ?」
なぜ寝る? それはちょっと……
少し悩んでからマルクは首を縦に振った。
「もう一度言います」
リィナに拒絶の意思が無いことがわかったマルクは彼女の肩に手を置いた。
それから優しくフワリと彼女を抱きしめた。
「はぅっ…」
頬が触れ合う距離でもう一度彼女に告げる。
「あなたのことが好きです。これからは僕だけを見つめてください」
そしてもう一度強く抱きしめる。今度はリィナもうれしそうに彼の首に手を回して抱きついてきた。
木陰の中で抱き合う二人の様子を一羽の小鳥が眺めていた。
「ふふっ、いい感じでくっついたわよ。あの二人」
「これで彼らも安心だね。」
小鳥の目を通じて映し出されるヴィジョン。
ウィルとライムは新カップルの誕生を喜んでいた。
クリスタルパレスから帰還した後、彼らはなんとかしてリィナとマルクを恋仲にしたいと思っていた。
「マルクも女性の気持ちには鈍感だからなぁ」
「あら、あなたがそんなこと言える立場かしら?」
ライムは何も言わずに立ち上がるとフフッと笑いながら家の外に出た。
「えっ? それどういう意味、ライム?」
不思議そうに聞き返すウィルの声を聞きながら、ライムは可愛い妹分たちの幸せをひそかに祈るのだった。
END アトガキ
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