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「助けてくれッ! なんでもする! 全部話すから……ギャアアアアア」

隣の部屋から聞こえる悲鳴で目が覚めた。
俺はZ国のスパイ。
数日前に街中で怪しげな連中(おそらくこの国の公安)に拉致され、睡眠薬を飲まされた。
そして気がついたときにはここにいた。
身体はまだ動かない。
しかし意識ははっきりしてきた。

普段は一般社会に溶け込み、秘密の指令があったときだけ短い時間で結果を出すのが「もぐら」と呼ばれる俺の役割だ。

記憶があいまいで、思い出そうとするとさっきから頭がズキズキ痛む……そうだ、たしか今回は仲間がミスをした。
そして今、情けないことに敵に捕まってしまってこの有様だ。
過激な拷問を受けたせいで断続的に記憶が吹き飛んでいる。
何か大事なことを忘れているようで心配なのだが……こんなときでも俺は死ぬことを選ばない。
むしろピンチはチャンスだと思って虎視眈々と敵の機密を盗み見ている。

見てろよ。

必ず隙を見つけて生還してやる。

ここに連れて来られてから、すでに何度目かの拷問をされた。
俺の身体に自白剤は効かない。そういう訓練をされているのだ。
敵から秘密を聞かれれば話すけれど、それは全て虚偽。
本当のことなど絶対に話さないぞ。

相手も馬鹿ではない。
俺のついた嘘などすぐにばれてしまうことだろう。
まあ、せいぜい慌てるがいいさ……。


目の前にいるのは3人目の拷問官。
腰まで伸びる金色の髪と、緑色の混じった青い瞳。
尋問用のライトに照らされ、白く輝く肌。
黒のタンクトップからはみ出しそうなバスト。
イバラの鞭とか似合いそうな美人だ。

「ははッ、今度は色仕掛けか……ぐぼおおっ!?」

吐き捨てるように俺は言った。
だが女は俺の言葉には答えず、いきなりみぞおちに拳をめり込ませてきた。

「お……おうぅぅ」

呼吸が止まる。
咳き込むこともできない。
小さな拳にきっちりと体重を乗せた見事なパンチだった。

「……ふん」

女はさらに俺のあごを持ち上げ、平手打ちを数回食らわせた。
鼻の粘膜が切れ、脳が左右にゆらされる。

「ううっ……失礼、アンタは正統派だったか」

「強情なお前には手を焼く。ここから先は楽に嘘がつけると思うなよ」

「なんだと?」

女はポケットから何かを取り出した。それは小さなスプレー缶。
吹き出し口をこちらに向けると、おもむろにボタンをプッシュしてきた。

「ぐあっ……あぐぁぁ!」

息が詰まり、目の奥が焼けるような感覚に包まれる。
悲鳴も上げられないまま視界が暗転する。
俺は再び気を失った。



どれくらい気絶していたのか見当もつかない。
そして再び目覚める。
まだ生きているみたいだ。

しかし目覚めてすぐに異変に気付いた。部屋の様子がおかしい。
クリーム色の壁。
明るい照明。
勉強机。
部屋の隅には小さめのベッド。

まるで子供の部屋みたいだ。
ゆっくり呼吸する。甘いケーキみたいな香りが漂っている。

「……」

体はさっきと変わらず動かせない。
両腕はしっかりと拘束されている。
拷問は続行中のはずだ……が、このミスマッチは何だ?

妙な胸騒ぎがする。

ガチャッ

その時、俺の右側でいきなりドアが開いた。
手足は壁に打ち込まれているみたいに拘束されていたので、真横にドアがあることに気づかなかった。
しかも驚いたことに部屋に入ってきたのは……

「おはよ、おにいちゃん」

およそ拷問には似つかわしくない少女だった。

少女は俺の正面に回って、にっこりと笑いながらお辞儀をした。
年齢は12〜14歳くらいだろう。
身長はそれほど高くはない。おそらく155cm程度だ。
肩は露出していて、フリル付の黒いキャミソールと、チェックのミニスカートをはいている。
髪は長く金色で、メイド風のカチューシャをしていた。
比較的美少女の部類に入ると思う。
俺はそういう趣味ではないが、ロリコンの奴らからしたらたまらない存在だろう。

「きみは……」

「ここからは私がおにいちゃんの担当だよっ」

やはりこいつが拷問官なのか。
意外性という点では正解だが、果たしてこんな少女に……

いや、なにかがおかしい。

「あんまり見つめちゃイヤよぉ……」

恥ずかしがった振りをしてもだめだ。
まじまじと目の前の少女を見つめる。
違和感の正体を突き止めてやる。

「……お前はいったい何者だ」

違和感の理由はすぐにわかった。
スカートから伸びているほっそりとした、形の良い脚。
しかし、ちょうど膝関節部分に機械的な何かが取り付けてある。
次に俺は手のひらや指先を注視した。
やはりそうだ。

マネキン人形みたいな切れ目。こいつ、人間じゃない!

警戒する俺の目の前で、少女の背中から翼のようなものが飛び出した。
飛び出したのは翼ではなく、禍々しい数種類のマニュピレータ……こいつ擬態していたのか!?

イラスト:絵助さん


「あはっ、気付いた? 私はGMR−12っていうの。拷問専用マシンよ」


俺は耳を疑った。

(目の前のこいつが噂の拷問ロボットだと!?)

今回の依頼を受ける数ヶ月前、同僚との雑談では聞いたことがあった。
スパイから情報を搾り出す拷問機械が某国に存在するということを。

こいつにかかったら、どんな屈強なスパイでも口を割ってしまうらしい。
その方法はわからない。
なにせ帰還した人間がいないのだから。
とにかくお前も気をつけろ。
目の前に拷問機械が現れたら舌を噛んで死ぬしかない……

――今が死ぬときなのか!?

機械相手に死を選ぶ。

(人として、なんとも情けない結末だな……)

だが、現状を分析すると死んだほうがいいのかもしれない。
体は固定されたままで、得体の知れない機械が目の前で俺を拷問しようとしているのだ。
回転する巨大なノコギリの歯がじわじわと迫ってきているのと同じ。
機械に感情はない。こいつは迷わず俺を苦しめるだろう。

頭の中で数秒間迷っているうちに、少女の姿をした機械が音もなく俺に近づいてきた。
滑らかな動きで腕が伸びて、俺の顔に手が触れた。
モーターの作動音など全くしない。
頬に触れる感触は人間の手のひらと変わらない。
今のところ痛みはない。

「はなせっ! バケモノめ!」

「もうっ! 私はGMR−12……これじゃあ言いにくい? じゃあ『セシル』って呼んで」

セシルだと?
なぜお前が俺の彼女の名前を知っているんだ……
単なる偶然なのか、それとも俺を混乱させるための敵の作戦なのかわからない。
「まずはあなたの味をインプットしないといけないね?」

機械の顔が近づいてくる。
左目の色が赤から緑に変わった。
うっすらとレーザーが照射されているのがわかる。

目を焼くつもりか!?

「あ……むっ♪」

「んうううぅっ!」

セシルはさらに顔を近づけると、唇を重ねてきた。
顔の表面にコーティングされたシリコンの味など感じない。
むしろリンゴみたいな甘い香りがした。

「相手にキスするだけで、私は色々分析できるの。性癖や女性の好みやもちろん、脈拍や体温、苦痛を感じるポイント、快感を感じるポイント……全部探ってあげる」

一見すると俺より背が低いはずの少女が、俺と同じ目線だということに気付く。
後で気づいたことだが、背中から伸びたアームが床面を押していたのだ。
そして俺よりも少しだけ高い位置からのキス。
拷問機械であるセシルのキスは甘く、しかも時々舌先が伸びて俺の口内を心地よくし続けた。
頭の中がボーっとしてくる。
キスに混ざって怪しげな薬を流し込まれたのか……?

「おにいちゃん……」

数秒後、一時的に俺を解放するセシル。
こいつが現れてからの短い時間で起きたことに戸惑いつつ、次の行動を考える。
そしてたどり着いた結論……

――今すぐ死ぬしかない!

今度は迷わなかった。
俺は渾身の力をこめて舌の根を噛み切ろうとした。

(ぐっ……! 嘘だろ……!?)

しかしそれはすでに不可能な状況だった。
自分で舌を噛み切るほど、あごに力が入らないのだ。

「今、死のうとした?」

俺のことをジッと見つめていたセシルの目が両方とも青くなっていた。

「ああ、お前なんかに機密を渡すものか」

「私にキスされてもまだ抵抗するんだ?」

一瞬だけ冷たく微笑んだセシルは、再び俺の顔を固定した。
やばい! また悪夢のキスをされてしまう。
さっきは筋力を弛緩させられる薬を混ぜられたに違いない。
今度は自白剤を打ち込まれるのだろうか。
それもとびきり強力なヤツを。

「もっと心を砕いて、死にたいなんて気持ちを溶かしちゃうね」

心の中では抵抗してみたものの、やはり恐ろしい。
目の前の拷問機械には謎が多すぎる。

(き、機械にキスされたってどうってことないじゃないか!)

はじめはそう思っていた。だが、正直なところ気持ちよすぎるのだ。

こいつの目的は機密を自白させることなのか?

それとも俺を肉体的に痛めつけて、精神を緩ませてからデータを取ることなのか?

そして……なぜ美少女の姿をしているのか?


「んぶっ、んん〜〜!」

セシルの手が俺の胸板を撫で回す。
キスをしながら下腹部に触れ、股間に細い足を割り込ませてくる。

抵抗しようにも体を捻ることもできず、弄ばれる。

(屈辱的だ! こんな拷問機械に)

股間が弾けそうなほど痛くなる。
情けないことに、男の感じるツボを押さえた責めに耐えられない。

俺の体が何度か大きく震えたとき、セシルは手を休めた。

「もうイきそうだね。ここでやめちゃう」

「くそ……」

「あれれ? もっとしてほしかったんだぁ」

腕を組んだままセシルはこちらを見て薄く笑っている。
背中からそっとアームを伸ばして、俺の乳首やわき腹を撫で回してくる。

「はうっ!」

「とっても敏感なんだね」

ゆっくり体を撫で回されて悶絶する。
こいつの前でこんな姿をさらす気などないのに。
人間としての尊厳を根こそぎ奪われたような気分だ。

「体を自由にしてあげる」

セシルの背中から別のアームが伸びる。
枝切りバサミのような形状をした先端が、俺の手首を拘束していた皮の手錠を切り裂いた。

「なぜ……」

「こんな鎖や手錠で縛られていたら、気持ちよくないもん」

左右の戒めを解かれた俺の腕がダラリと垂れる。
長時間同じ姿勢を強いられたせいで、筋肉が言うことを聞かない。
せっかくのチャンスではあるが、逃げられない。
自由になった手足に力が入らないのだ。

「大事なおにいちゃんはぁ……私の翼で包んであげる」


セシルの背中のアームがゆっくりと俺に迫ってきた。
複数のアームが織り成す姿は、まるで天使の羽のようにも見える。
いや、訂正しよう……悪魔の翼に見える。
その中に見え隠れするマジックハンドのようなものが、やんわりと俺の手首を掴んだ。
静かなモーター音と共に、言いようのない不安感が込み上げてくる。

「こうすると私の顔が良く見えるよね」

「ふざけるな! 今すぐ離……」

恐怖感を消すために絶叫する俺の唇をセシルは静かにふさいだ。
口の中に広がる甘酸っぱい味。思わず唾液を飲み込んでから気づく。
またこいつに薬を注入された。
思考がまとまらない上に、目の前の美少女ロボットに見惚れてしまう。
自分より背の低い少女の形をした機械に見つめられる。
しかも手首を吊られてY字に吊られて、抵抗することも出来ない。

「まだ始まったばかりだよ?」

「く……そ……」

「本当のことを言ってくれるまで、楽にしてあげないからね?」

セシルはアームを操作して、俺との距離を縮めようとした。
両腕が封じられている状態で俺に出来ること。
気力を振り絞って右ひざ蹴りをかましてやる……はずだった。
相手の左わき腹を狙って繰り出したはずの蹴りがあっさりと受け止められてしまった。

『ターゲットの反撃を確認しました。拘束レベルを上げます』

セシルが呟いたのは機械的な声。
表情を全く変えずにセシルは俺の腰を持ち上げる。
じっと床面とつま先を見比べて距離を計測してから、数センチだけアームを上にずらす。
手首を吊られた状態で爪先立ちをさせられてしまった。
親指と人差し指だけがかろうじて床面に触れている状態。

「もう何もできないでしょう? イタズラしちゃだめだよ、おにいちゃん」

「舐めやがって……」

「ちょっとお注射するね」

左手首にチクリと痛みが走る。
おそらく手首を拘束しているアームから注射針が飛び出したのだろう。
今度は一体どんな毒を盛られたのか不安になる。

「今のは即効性の精力剤だよ。安心して気持ちよくなってね」

なぜこの状態で精力剤を?
俺を弱らせたままのほうが拷問しやすいはずなのに……
こいつらの言う拷問の意味がわからない。
性的な辱めを受けさせることが自白につながるのだろうか。
俺は今までこんな目にあったこともないし、対抗するための訓練も受けていない。

(ぐっ……)

左腕が、左半身が熱い。
これはさっき打ち込まれた精力剤のせいなのだろう。
妖しげな熱はどんどん体中に広がってゆく。
身体がむず痒い!

「これ何だかわかる?」

表情をゆがめる俺の前で、セシルは黒いアタッシュケースを開いた。

「なんだそれは……!」

「手首セット。いっぱい種類があるんだよぉ」

ケースの中には女性の手首らしきものがいくつも並んでいた。
それぞれ赤や水色のレースの手袋をしている。
付け根の部分はボールジョイントになっており、接続端子も見える。
拷問用の小道具が登場したということか。

「まずはこれ」

セシルは一番手前にあった桃色の両手首を取り出した。
そして俺に背を向けたままカチャカチャと音を立ててパーツを付け替えた。

「ローションハンド。気持ちいいよ?」

ニコっと笑いながら、両手の甲を俺に見せ付ける。
その名の通り、ヌラヌラと光るローションつきの手に見える。
セシルは無造作に手のひらを返して、俺の胸にペタっと押し当てた。

「ほらぁ……」

「くうっ、あああぁぁぁ!!」

ひんやりとした感触は一瞬だけで、その後すぐに身体に電撃が走った。
俺を悩ませていたムズ痒さの上に重なるローションの感触は絶妙だった。
身体がいつもよりも敏感になっている。
研ぎ澄まされた感覚を優しくなで上げるセシルの指先……

「たくましい胸板も、かわいいおっぱいもヌルヌルよ……」

丁寧に俺の身体の隅々まで指先を這わせてくる。
必死で歯を食いしばってみても、セシルの指先が流れるように動くだけで、全てが崩されていくようだった。

「あああぁぁっ、ぐああっ!」

「ただ気持ちいいだけじゃないんだから」

俺の脇の下で指をすぼめてクチャクチャと音を立てながらセシルは言った。


「ちゃんと拷問用のお薬が入ってま〜す」

最初に塗られた部分はすでに乾燥し始めている。
しかし、身体の表面をコーティングしたローションの効果は凶悪だった。


「もうすぐ効果が出てくるよ」

やつが言うまでもなく、すでに効果は出始めている。
むず痒さと共にローションで撫でられた快感をも薄皮一枚に封じ込めていた。
俺の身体が自由なら、すぐにでも全身をかきむしっているだろう。

「き……さま……」

「触れるか触れないかギリギリの快感で……狂わせてあげるね」

さらに念入りにセシルは指先でローションを伸ばす。
正面から抱きつくような体勢で背中全体を魔のローション漬けにしてくる。

「気持ちいいんだ?」

「そんなわけない……だろうがああぁぁ!」

「どっちでもいいけど、次いくね」

急にクルリと背を向け、手首を付け替える拷問ロボ娘。
ほんの数分で、俺はさっきよりも体力を搾り取られてしまった。
ペニスと睾丸を除く全身を、たっぷりと愛撫された。
特にあの指さばき……機械ならではの正確さと無慈悲さは、俺を打ちのめした。

「今度はこれ……選ばせてあげる。どっちがいい?」



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