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―― 遅刻した日の放課後 ――


「今日はホントにひでー目にあったな…」

運悪く一時間目に抜き打ちテストがあった。
内容的には問題なかったんだが気持ちに余裕がなかった。
おかげでミスを連発して赤点。
これで俺は土曜日出勤…じゃない、補講が確定した。

「ホントだよねー」

俺の後ろを歩いていた柚子がため息をつく。
こいつはこいつでなんかあったみたいだが、

「テメーがいうな!」

「なによぉ…」

柚子と一緒の帰り道になることはめったにない。
別に避けてるわけじゃないけど、なんとなく恥ずかしいので時間帯をいつもずらしている。
それが今日はなぜか一緒に校門を出てしまった。


家に向かう途中のコンビニから、見たことのある女の子が出てきた。
明るいブラウンの髪をしたポニーテールのあの子は…

「あー、かりん!」

「ゆずちゃん! あとお兄さ…センパイも、こんにちは」

「またなんか怪しい雑誌読んでたの? かりん」

「ううん、ちがうよぉ…」

どうやら柚子と花鈴ちゃんとで話に花が咲きそうな雰囲気。
俺は先に帰ろうとして妹の肩をポンとたたいた。


「じゃあな、柚子。それと花鈴ちゃんもバイバイ」

女の子同士の話なんて立ち聞きしてもしょうがないし。
ふたりから足早に遠のく俺。

「あっ…」

軽く手を振り背を向けた俺を見て、花鈴ちゃんが柚子に耳打ちした。

「柚子ちゃん…ちょっといいかなっ」

「んー、どしたの?」

「センパイ……お兄さんに相談があるの…」






「兄貴! かりんが呼んでるよっ」

俺の背中に妹の馬鹿でかい声が浴びせられた。
振り返るとこっちを向いてる柚子と、その横でアワアワしている花鈴ちゃんが見えた。

「柚子ちゃんやだっ、大きな声で呼ばないでいいよぉ。…悪いでしょ!」

「おやおやぁ〜♪ 兄貴、良かったね!」

こいつ時々よくわかんねえ……いったい何が良かったんだ。
柚子が手招きしているので仕方なくコンビニのほうへ戻る。

「後は若い二人に任せてオバチャンは帰りますよぅ」

「こらまて妹。」

「あいたたたっ」

俺の脇を通り抜けようとする柚子の髪を引っ張る。

「なにすんのよぉ…バカ兄貴!」

「バカは余計だ。説明しろ」

「あ、あのっ…柚子ちゃんを叱らないでください、センパイ」

可愛い花鈴ちゃんに言われたら仕方ない。
俺は柚子を放り投げるようにして逃がしてやった。


「話って何?」

俺の後ろではきっと柚子が舌を出していることだろう。


「あの…センパイ、柚子ちゃんからきいたんですけど…夏蜜センパイのこと、好きなんですか!?」

思ったよりストレートな質問をしてくる彼女。
クリクリした目で俺を見つめながらそんな話題を振ってくるとは…

「あ……うん、まあ…」

自分でも嫌になるくらいあいまいな返事。

『かりんは兄貴のこと大好きよ』

柚子が俺にあんなことを言わなきゃ意識することもないんだが。



「そうですか。キレイですものね、夏蜜センパイ。」

俺の言葉を聞いて、にっこり微笑む花鈴ちゃん。
夏蜜さんはたしかにキレイだけど、君も将来いい勝負になると思うよ。


「告白してもあっさり振られるかもしれないけどね」

「いいえ、きっとお似合いです! 柚子ちゃんと一緒に私も応援します」

花鈴ちゃんほどの美少女でも認めるほど夏蜜さんは美しいわけだが、
この子が俺のこと好きだと言ってた柚子の予想は思いっきり外れた。
そうでなければ俺を応援するなんていうはずもない。


「じゃあこれで…」

話は終わった。
今度こそ家に帰ろう。
だが背中を向けた瞬間、花鈴ちゃんが俺に声をかけてきた。

「センパイ!」

「うん?」

数メートルの距離で立ち止まる。


「私はセンパイのこと、大好きですっ!」

「!!」

「じゃあこれでっ」


告白された?
しかも言うだけ言ってさっさと消えちゃった!

後から効いてくるよなこれ…













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