「ずるい人…」
突然ポツリと彼女が言った。
「な、夏蜜さん?」
「だって妹さんの気持ちを踏みにじって私を選んだんですもの」
こうしてはっきりと言われると胸がズキンと痛む。
自分の願望が作り出した夢のはずなのに、なんで急に…
「気にしていたんでしょ? 柚子さんのこと」
「うん…」
「ちゃんと抱いてあげればいいのに」
ちゃんと?
それは俺が柚子と……するってことか?
そんなことできるわけが…
「しってるわよ? 本当は ――― 」
その時、目の前の夏蜜さんの姿が柚子に変わった。
今の俺にとって一番聞きたくないことを彼女が言おうとした瞬間…
「ぶあっ!」
俺は布団から飛び起きた。
枕元の時計を見るとまだ5時を回ったところだった。
(なぜ夢の最後が柚子なんだ…?)
ただの夢…にしては鮮明に記憶に残ってる。
特に夏蜜さんの体の感触とかリアルすぎて…ん…?
このアホ毛は…?
「むにゅ…」
「ゆず!?」
白地に赤いチェック模様のパジャマを着た妹が隣にいた。
なんかちっこくて生暖かいのが隣にいると思ったら、こいつか!
「こ、こら! 起きろテメー!!」
ゆさゆさゆさゆさ!
「んん〜〜〜、兄貴オハヨゥ」
おはよう、じゃねえ!
何でお前がここにいるんだっ
俺は寝ぼけまくっている妹をベッドの上に正座させた。
ぼんやりしながら柚子が言う。
「すごかったんだよ、兄貴。うなされててさ、あたしメチャメチャ心配した」
心当たりはあるので言い返せない…。
本当にそうなのか?
だとしたらお前にはありがとうと言うべきなんだろうな。
「まだ眠いよ。もうちょっとねよーよ」
パタッと布団に倒れこむ柚子。
とことんマイペースだな、お前…
仕方ないので俺も釣られて布団をかぶる。
「こうやって一緒の布団にいるのって久しぶりだネ」
「あっちいけ! 狭い!!」
俺に押された柚子がモソモソ動いて壁際によった。
「もう少しこのままでもいい?」
「…今日だけだぞ」
「へへっ、ラッキー♪」
指先に残るリアルな感触はきっと柚子のせいだな。
うなされた俺は、心配して近くに来たこいつを抱き枕にして寝ていたんだろう。
ありがとう、柚子…と言い掛けた時に背中を向けていた妹が反転した!
「ねえ、兄貴…夏蜜さんとはうまくいきそう?」
「正直なとこ、わかんねえな…」
「あたしは応援してるよ!」
布団の中で右手の親指をぐっと立てる柚子。
「兄貴の気持ちが、好きな人に伝わることを応援してる…」
「ゆず…」
ひさしぶりに一緒の布団で寝転がっているせいなのか、こいつのことをとても可愛く感じる。
ちっちゃな頭を優しく撫でてやると、柚子は猫みたいに目を細めて喜んだ。
「昨日のハンバーグ美味しかったよ」
「ホント?」
「うん。ありがとうな、柚子。メシ作って待っててくれたんだろ?」
俺が昨日の飯を食べたとき、反対側にもう一皿置いてあった。
あれはきっと妹の分だと思った。
「…うん。兄貴待ってた」
ちょっとだけ声が沈んだ。
なんだかとても悪いことしたな…って思う。
「お詫びに今度は俺が作ってやるから…今はもう少し寝よう」
「お詫びに抱っこして、兄貴♪」
「調子に乗るなバカモノ…それにピッタリくっつくな!!」
「いーじゃん! ケチー! じゃあ腕枕だけっ」
「……ほら」
「♪」
そのあと二度寝した俺たちが、
学校に遅刻する寸前に飛び起きたことは言うまでもない。
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