突然、テニス娘が俺の目の前でペタンとしゃがみこむ。
俺は死んだ振りをしてスカートの中を覗きこもうとしたが、聞き覚えのある声に思わず視線を上げてしまった。
太陽の光をキラキラ弾くような明るさの茶色い髪。
穏やかな瞳と優しい笑顔。
それにこのポニーテールが似合う可愛い顔立ち…見覚えがある。
「大丈夫ですか?」
「やあ…!」
彼女は今朝の俺の女神・花鈴ちゃんじゃないか!
「あ…私がお兄さんなんて言うのはおかしいですよね」
「別にかまわないよ?」
「いいえ、じゃあ…センパイって呼びますね!」
俺はさっきまでの痛みも忘れて彼女を見つめていた。
柚子の友達ってことは、当然アイツと同い年だよな…
今朝の制服姿も可愛かったけど、テニスルックも可愛い花鈴ちゃん。
とくにポニーテールがすごく似合う。
「ところで…こんなところで何をしてるんですか? センパイ」
「え…あ、ああ…!」
無意識に彼女に見とれていた俺は、
我に返ると慌てて『エムティーン』を隠そうとした。
しかし時既に遅し。
「あっ、それ!」
「うわっ! あ、あははははは…花鈴ちゃんも読んでみる?」
自分でも何を言っているのかわからない。照れ隠しの言い訳にすらなっていない。
でも彼女の前ではいいお兄さんでいたいと思うのだ。
「いいえ、でも…その…」
「ん?」
「それ、私が柚子に貸したんです」
「え…??」
一瞬、自分の耳を疑うリアクション。
俺は手元にある(エロ)雑誌と、目の前の大人しそうな彼女を交互に見比べた。
「い、意外だね…花鈴ちゃん」
「よく言われます」
「夏蜜さんの情報を柚子に教えてくれたのもキミなの?」
「ハ、ハイ……あの、おとなりいいですか? センパイ」
俺が頷くのを見てから、ちょこんと隣に座り込む花鈴ちゃん。
ふーっと深呼吸をひとつしてから体育座りをした。
そして恥ずかしそうに、遠慮がちに身を寄せてチラリとこちらを見上げてきた。
「私、お兄ちゃんいないから…なんだかこういうのっていいですね!」
朝と同じようににっこりと微笑む彼女。
反則だろ、それ。
妹の友達なのに、なんだかドキドキしてきた。
柚子の代わりにこの子が妹だったらどんな毎日になるのだろう。
(か、かわいいな…)
性的な意味はなく、素直にそう思う。
花鈴ちゃんを見ていると自然に穏やかな気持ちになってくる。
一緒にいるだけで基本的に戦闘モードに突入してしまう柚子とは大違いだ。
「センパイだから言っちゃいますけど、人一倍……興味だけはあるんです」
「ん……なんのこと?」
「エッチ…のことです」
小さな声で、でもストレートに彼女は言った。
こんな可愛い子がエッチに興味があるということは、夏蜜さんも同じかもしれない。
昨夜の柚子の話もあながち嘘ではないのかもしれないなぁ…。
チラリと横顔を見ると、心なしかさっきよりも顔に赤みが差していた。
「でも、実際にどうかと言われると…自分に自信がなくて」
くしゃっと自分の前髪を掴む花鈴ちゃん。彼女は客観的に見てかなり可愛いと思う。
彼女のほうから男子を誘えば、よほどのことがない限りエッチに突入するだろう。
それでも自分に自信がないって言うのは、きっと容姿の問題ではなく心の問題なのだ。
「私ってダメなんですよね。 引っ込み思案だから」
「あんまり自分を追い詰めないほうが良いよ。 じゃあね」
なんとなく重い雰囲気になってきたので、俺は自分からその場を立ち去ることにした。
この話の続きは、また彼女がうちに遊びに来たときにでもしよう。
悩みを聞いてやるくらいなら俺でも出来るはずだ。
「あっ、あの!!」
「うん?」
急に立ち上がった俺を追うように、花鈴ちゃんも慌てて立ち上がった。
そして俺のほうを見つめていたかと思うと、すぐに視線を落とした。
「試してみます…か?」
たしかにそう聞こえた。
だがあまりにも小さな声だったので、俺は思わず聞き返してしまった。
「花鈴ちゃん、今なんて…」
「そっ、その本に書いてあること、私でよければ…ですけど……」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。
どうする?
選択肢
1・おねがいしてみる
2・聞こえなかったことにする
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