あの後、俺は学校で夏蜜さんを避けるように半日を過ごした。
そして終業のチャイムが鳴った途端にそそくさと校舎をあとにした。
「はぁ〜〜〜〜〜〜…」
学校からの帰り道、俺は何度目かのため息をついた。
朝からずっと同じことを思い出す。せつない…
『うちの兄貴、どうですかっ!?』
今朝の柚子の言葉を思い出す。
俺だって、あいつに悪気がなかったということはわかってる。
深く考える前にまずは行動…昔からそんなパワフルな性格の妹。
あいつなりにこのふがいない兄を思っての行動なんだとおもう。
しかし…夏蜜さんの耳に入ってしまった言葉は消しようがない。
これがゲームだったらリセットボタン押してセーブポイントからやり直したい。
いや、本体ごと買いなおしてはじめからやり直してもいい。
「……」
そんなことは無理なので、これからのことを考えよう。まずは夏蜜さんの誤解を解く。
彼女の頭の中では、俺が柚子に頼んで間接的にアプローチしたように思われてる。
それはさすがに男として、なんと言うか…情けない。
ヘタに弁解しても傷口はますます広がるだけだろう。
いったいどうすりゃいいんだ。
「ゆずのやつ、応援してあげるって言ってたけど」
あいつの頭の中に、何か俺の汚名を返上するための好材料はあるのだろうか。
そういえば今夜俺の部屋に来るとか言ってたな。
本当はあんまり中に入れたくないんだけど。
俺は早く帰ってエロ本を片付けることにした。
そして夜。
俺の部屋のドアがノックされた。
「…兄貴、入っていい?」
「ああ、どうぞ」
ドアに向かって返事をすると、ひょこっと柚子が現れた。
手には何かの紙袋を持っている。
クリーム色のロングTシャツにレギンスというどこかオヤジくさい格好ではあったが、女子校生の部屋着なんてこんなもんだろう。
もともとこいつの服装とかあんまり興味ないし。俺のほうもなんとか掃除(=エロ本隠匿作業)も終わった。
入ってくるなり妹はフローリングにぺたんと座り込んだ。
そして突然ぺこっと頭を下げた。
「おまえな…」
「兄貴、今朝はごめんなさいっ」
いやみのひとつも言ってやろうと思っていた矢先だった。
俺に向かって直角におじぎしたまま柚子は動かない。
おそらく俺が許すというまで頭を上げないつもりだ。
「もういいよ、ゆず」
がばっ!
「良くない! あたし兄貴に悪いことしちゃったんだヨ」
「ほう…」
一応自覚はあるらしい。
これで居直ったりしたら朝までいじめてやるところだが、さすが我が妹。
俺の怒りは完全に鎮まった。
「…で、これからどうやって応援してくれるんだ?」
「それなんだけどね、友達にこれ借りてきたっ!」
柚子は部屋に持ってきた紙袋をガサガサと開け始めた。
そして中から一冊の本を取り出して俺に突きつけた。
『月間エムティーン別冊 君にもできる! 一週間で彼氏をゲット!!』
いかにも女子中高生が手に取りそうなファッション雑誌。
コンセプトがよくわからない雑誌だ。とにかく俺は見たことがない。
「なんだこれは…」
「これ? えっと、いっしゅうかんでかれしをげっと…」
「読み方を聞いてるんじゃねえ! それに彼氏をゲットしたくねえ!!」
「そんなに怒らないで (はぁと♪)」
柚子がとにかく読んでみろと促してくるので、仕方なくパラパラめくってみる。
つまらん…
見れば見るほど俺には関係なさそうな世界の本だ。
「あたしの友人情報 その1・夏蜜さんは毎月同じ書店でこの雑誌を購入しているっ」
「なにっ」
フフンと鼻を鳴らす妹。
夏蜜さん情報を集めてきたのは褒めてやるが、信じられん。彼女がこんな本を買うか??
気になる特集の内容は、女の子から男の子を誘惑する方法とか
勝負下着やエッチの指南まで広く浅く書かれている。
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