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【プロローグ】


眠い。布団から出たくない。
しかし必ず朝は来る。
寝てしまった以上、いつかは目覚めなくてはならないわけで……

時計を見る。まだ早い…。
もう少し寝ててもいい感じ。
俺がもう一度寝ようと決意したときだった。


ガンガンガンガン!

「兄貴っ! 起きてよ!! 起きろ〜〜〜」

これは二歳年下の妹・柚子(ゆうこ)がプラスチックのバットでパイプベッドの淵を叩く音。
なにもこんな起こし方しなくてもいいじゃねえか。
さすがに寝てられない。この上なく不愉快な気分。


「うるせー、寝かせろ」

「うるさくない! 起きないアンタが悪いっ」

このように俺の目覚めは常に強制的だ。
鬼のような妹に布団が剥がされて、いつものように朝が来る。

「頼む、ゆず……もう少しだけお前の愛を兄にくれ」

「却下。そんなモノはないっ! それにゆずって言うな!!」

妹は柚子という名前にコンプレックスがあるらしい。
俺は昔から言いやすいので「ゆず」と呼んでいるけど、学校で友達にからかわれるのだろう。

それでも今朝は眠いので、しぶとく抵抗してみる。

「寝かせろちゅーのっ!」

「あれれれ〜?? あたしに歯向かうんだ? …あっ、そう」

ガシッ!

「えっ…?」

体を丸めて動こうとしない兄の両足首を妹はがっちりと掴んだ。
そしてヨイショと小脇に抱えると、ずいっと右足を俺の股間に押し付けた。

ま、まさか!

「とりゃああああ! 起きろー!」

ドガガガガガ

「ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ」

一気に眠気が吹き飛ぶ。睡眠を求め、抵抗する気力も消し去る痛み。
柚子はサディスティックな笑みを浮かべながら悶絶する俺を見下している。
無理やり俺の脚を開いて、男の急所を何度も踏み潰す。

「ギブギブギブギブ!!!」

「はい〜? 聞こえませんケド」

ドガガガガガガガッガガガガガガッガ!

「ひぎいいいいいいいいぃぃぃ!!」

首を左右に振って股間の疼きを紛らわそうとするが、まったく無駄。
妹の小さな足はますます激しく俺の股間を痛めつける。

「このままじゃ潰れちゃいますけど〜?」

「テメー! 早く足を止めろ」

「まだ自分の立場というものがわかってないみたいネ」

ガガガガッガ!

「いいやああぁぁぁ!!」

「まあ別にいいよね? あたしは全然痛くないし」

「ゆずっ、ごめ…ああぁぁ! 起きるからやめろおおおおお!!!」

俺がはっきりと降参の意思表示をしたところで、電気アンマが止んだ。

「はい、おしまい」

「ぐうううぅぅぅ…」

「あんまり手間取らせないでよねっ」

ポイッと俺の両足をベッドに投げ出してから柚子は背を向けた。
やつが消えてからもしばらくの間、 スリッパで叩かれたゴキブリみたいに俺はベッドの上で悶えていた。




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