「ようやくこれで終わりかな」
クリスマスの前日、俺はいつものように仕事をこなしていた。
季節柄、配達の荷物が多くて最近忙しい。
(早く帰って奈緒のプレゼント選んでやらないとな)
今年もいろんなことがあったけど、一番の大きな出来事は奈緒のことだった。
お隣さんで幼馴染の広瀬奈緒。すっかり可愛らしくなった彼女が、俺に告白してきた。
俺としては断る理由はないというか、むしろ密かにあいつの事が好きだった。
春先から付き合い始めて、今回が初めてのクリスマス。
何かいい思い出になるような場所にも連れて行ってやりたいのだが、仕事が俺の邪魔をする。
「なんだか悩み事があるみたいね?」
作業中の俺に声をかけてきたのは、職場の一期上の先輩社員である鶴田さんだった。
「ええ、そうなんです」
反射的に答える俺をみて、プッと吹き出す鶴田さん。
「普段はポーカーフェイスのあなたが珍しく焦っているように見えたからね?」
「ホントですか?」
自分ではまったくそんなつもりはないのだが、自然に体からにじみ出ていたらしい。
俺は決まり悪そうに頭をポリポリとかいて見せた。
「実は彼女のことで……」
「えっ? 彼女いたの!タカヒロくん!!」
鶴田さんは目をキラキラさせて突っ込みを入れてきた。
俺ってそんなにもてないように見えるのかな?
まあ別にいいんだけど……
「クリスマスのプレゼントのこととか?」
まさにずばりそのことだ。女の勘は恐ろしい。
俺は鶴田先輩に悩みを話すことにした。
しばらくはウンウンと聞いていた彼女が、急にこう言い出した。
「じゃあ私がプレゼント選び、付き合ってあげるわ」
女性が欲しいものは女性に聞いたほうが早いかもしれない。
俺のセンスではガンダムのプラモとか選びかねない。
「お願いします」
俺は頭を下げて鶴田さんにお付き合い願うことにした。
その頃、奈緒は学校の友人・中野美奈と一緒にカラオケ屋にいた。
冬休みに突入したらしく、二人とも時間を気にせず昼間から数時間歌っている。
サービスタイムなので料金もほとんど無料だ。
「もう何回目よ、奈緒〜! またカレシの自慢?」
「へへへ♪ いいでしょ〜」
クリスマスソングを歌いながら、奈緒は美奈にノロケまくっていた。
もはや呆れ顔の友人が奈緒に問い返した。
「それで今夜はクリスマスイブだけど、何かいいことあるわけ?」
「うっ、それは聞かないで……」
急に沈んだ表情をする奈緒。
「カレシは仕事だから特に予定はないの」
「そっか」
ちょっと悪いことを聞いてしまったかな、と、美奈は反省した。
気を取り直して奈緒の喜びそうな話題を振った。
「でもさ、奈緒のカレシってすっごい優しいんでしょ?」
「うん! 超やさしいんだよ!!」
パッと明るくなる奈緒の顔を見て、友人はまたもや反省した。
奈緒にまたノロケさせる材料を与えてしまったことに対してである。
このままでは身が持たないので、ちょっとイジワルな言葉を付け加えてみる。
「奈緒のカレシ、そんなに優しい人だったら……」
「うん?」
「他の女のコからもモテるだろうし、今夜は帰ってこないかも?」
「タッ、タカヒロに限ってそんなことないよ!」
ムキになって怒り出す奈緒をみて、美奈はニヤニヤしながら続けた。
「奈緒のカレシさん、私も誘惑しちゃおうかな〜〜〜」
「や、やめてよねっ! あたし信じてるもん」
奈緒がプイッと横を向いたところで、次の曲がスタートした。
それから一時間ほどして、奈緒はカラオケ屋を出て近所のショッピングモールに出かけた。
街は赤と緑の装飾で賑やかに飾り立てられている。
洋服や雑貨の店をいくつか周った所で、美奈がアンティークな雰囲気の店を指差して奈緒に言った。
「奈緒っ、あれってカレシさんじゃない!?」
「えっ?」
基本的に奈緒は他人の言うことを疑わない。
何でも真に受けるのがおもしろくて、
美奈はよく奈緒をびっくりさせるようなことを言うときがある。
「もー! また、あたしをからかうつもり?」
「ちがうってば〜! ほら、あっち見てみなよ!」
また美奈のイタズラか、と思いつつも
彼女が指差す方に振り向いた奈緒の目に、タカヒロらしい人物が映った。
「ヤダ、本当にタカヒロだ!!」
いつも着ているコートや鞄など、奈緒も何度か見たことがある。
まぎれもなくそれはタカヒロの姿だった。
だが気になったのは彼のことではなかった。
「誰あの人。すっごいキレイな人!!」
奈緒より先に美奈が言った。
タカヒロの隣には奈緒の知らない美しい女性が立っていた。
年齢はおそらくタカヒロよりも少し上で、身長は奈緒よりも高い。
いかにも20代前半の女性という感じで、美人の分野に入るだろう。
目が大きく、少しツリメで勝気な雰囲気。
栗色の髪を肩の辺りで軽くカールさせている。
「これなんかいいんじゃない?」
「そ、そうかな……」
遠くで話している二人の声が聞こえた。
コロコロと鈴のような声で笑う見知らぬ美女。
(あんなに親しそうにしてる!)
友人の手前もあり、奈緒は口には出さなかったが
心の中は穏やかではなかった。
どうやらここはアンティークの小物などを扱う店らしい。
全体的に赤っぽい照明で照らされた店内は大人のイメージだ。
もちろん奈緒はタカヒロと二人でここに来たことはない。
(やばいなぁ……奈緒、すっごいショックだろうな)
何も言わずに一点を見つめたまま動かない友人をみて、美奈はドキドキしていた。
自分の一言でこの後どんな修羅場を迎えるのかと思うと責任を感じざるを得ない。
奈緒たちはタカヒロと謎の美女に気付かれないようにしばらく様子を伺っていた。
その間、奈緒は石造になったように身動きひとつしなかった。
すると、美女がさりげなくタカヒロに腕を絡めた。
もちろん彼はすぐに気付いて恥ずかしそうに振り払ったのだが、
「うう〜〜〜! 許さん、タカヒロ!!」
さすがに堪えきれず、奈緒が発した言葉に美奈はビクっとした。
それからしばらくして、奈緒は親友と別れた。
少し引きつった笑顔を見せる奈緒を心配そうに見つめながら、美奈は手を振った。
奈緒は自宅の前を通り越して、隣のタカヒロの家のドアを開けた。
「こんばんはー、おばさん。お邪魔します!」
「あら、奈緒ちゃん。いらっしゃい」
玄関にタカヒロの靴はなかった。
奈緒の声に反応したタカヒロの母親が、彼女を出迎えた。
「大変です、あいつが浮気ですよ!」
「あらあら……」
興奮気味に取り乱す奈緒を見ながらも、
ニコニコした表情を崩さないタカヒロの母。
「とにかくこっちにいらっしゃい、奈緒ちゃん」
「うう〜〜〜、あたしの純情を返せ〜〜〜」
タカヒロの母に促されて、奈緒はブツブツいいながらも玄関の先に上がった。
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