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第一章 『鍛錬』



『2008年 11月 28日 金曜日
 20時 0分

 今日もジムで体力向上のトレーニングをした。
 だがその際右足を捻挫し、
 普段よりは量が少なかった。』



今日の日記を書き終え、溜息を吐く。
落胆や疲労ではなく、安堵からくるものだ。


僕はもう壱拾七才。
初めて刀で生物を刺した(だろう)日から、
二年と数日経った。


僕はその時のことを一厘も覚えていない。

その日の日記には、
【刺したこと】だけがあり、
『強くならなければ。』という僕のやけに丁寧な文字があった。


その謎の決意が僕の毎日を変えた。


朝からトレーニングジム
(剣技大会の為の訓練施設だ)
に通い、
力を上げ、腕を磨き、勘を身に着け、
試合に明け暮れる日々。


ジムが休みの日は喧嘩や虐めに割り込んで、
優勢な方と素手で戦う。

喧嘩や虐めが見当たらないなら、
万引き等の非行を重ねるとびきりの不良に喧嘩を売る。
(傍から見れば僕の方が不良に見えるだろう。)

不良がいないなら友達
(同じジムに通っている)
に頼んで戦わせてもらう。



これが今の【日常】だ。



もっとも、最近は僕の事が知れてきて、
不良グループは揃って僕を避け、
喧嘩や虐めは、
より見つかりづらい場所でされる様になった。

でもお陰で、
僕に喧嘩を売る(挑戦)人もちらほら出てきた。
そうして二年ちょっと過ごしてきた。



今日はまだ早いけど寝よう。

明日は久々に【遊ぶ】約束をしてある。
僕と同じ、ジム通いの友達だ。


明日も良き一日でありますように。





うん……朝か?

時計の表示は6:52……
かと言って二度寝は危ない。

起きよう。


うつ伏せになり、
ベッドの上で猫やハムスターのように伸びをする。


幼少からの僕の癖だ。

朝に弱い僕は、
余程沢山寝たり、暑かったりしなければ、
こうして体を慣らす。

暑がりな僕は、夏は朝五時にすっかり目が覚める。



僕はベッドから降り、本棚から一冊の本を取り出し、またベッドに戻る。

枕を背に毛布を脚に掛け座り、
開いた本のタイトルは【陰陽の仕組み】。


ごく限られた人間
(その才能があって、精神力の強い人間だ)
のみが使える法術だ。


法術は【陰陽】と【七行】がある。


【陰陽】は光(陽)と影(陰)の力を操る技術だ。

精神力の無い人間が不用意に使うとショック死までする。
精神への負担が強く、また才能も必要なので使える人間は珍しい。
まずまず自由に使える者は大方【陰陽師】と呼ばれる。

勿論、二つの力は相対関係にある。


【七行】は日月火水木金土
(にちげつかすいぼくごんど、と読む。)
の七つの力を使う。

中でも日、月は特別で、
それぞれ日は正、月は負を暗示しているからだ。
(実際にその力を秘めているらしい。)

そのため、
日と月を抜いて【五行】と呼んだりもする。

日は【暖】と【明るさ】と【光】、
月は【涼】と【暗さ】と【闇】、
火は【熱】と【速さ】と【雷】、
水は【冷気】と【惑わし】と【氷】、
木は【生命】と【育ち】と【風】、
金は【質】と【硬さ】と【刃】、
土は【量】と【重さ】と【槌】、
とそれぞれ力を持つ。


木を除く全てが相対関係にある。

水は木と土にも弱い。

木は全面的に【助ける】力が働くが、
(逆に言えばほぼ全てに弱い。)
水、土に対してのみ脅威の【吸収】が働く。

水と木だけが【変化】の力を持つ。
【惑わし】、【育ち】だ。
だが何故か日と月には干渉出来ない。

五行は才能が無くとも年月をかけて修行すれば使える。
だが、残りの日と月は陰陽同様に才能と精神力、
さらにその上に努力が無ければならない。

力の大きさは
五行<陰陽<七行の日と月
とも言える。



……と頭の中で法術学基礎の復習をしながら本を読んでいると、
時計の表示は8:23。

……朝御飯食べよう。






朝御飯(コーンフレーク)を食べるべく一階に降りた。


冷蔵庫から牛乳とコーンフレークを出し、
器に牛乳……またか。

仕方がないのでそのままコーンフレークを入れて、リビングで食べる。

「いただきます」



今日会う予定の友人は五行が少し出来る。
他にはこれといった取り柄は無いが。



……完食。


僕は【ごちそうさま】は言わない。

人にはそれぞれの信念がある。
僕だってそうだ。



さて、残った時間で何をしようか……
本を読むか、ゲームをするか、
はたまた喧嘩を売られに出るか……


よし、本を読もう。

そう決めた僕は自分の部屋に上がり、
小説を一冊手に取り、読み始めた。
【愚か者全集】という短編集だ。




…………

………

……




ふと時計に目を遣ると表示は10:08……

「急ごう」

つい呟く。


僕はだらしない寝間着から、
クリーム色の長袖Tシャツと淡い緑の長ズボン、
そして青の上着に着替えた。


僕がめかし込むことはあまり無い。
最低限恥ずかしくない格好ならそれでいい。


色々入った鞄を持って部屋を出る。

階段を降り、
廊下を渡り、
玄関で靴を履き、
(革ではなくスニーカーだ)
扉から家を出た。





僕の家を出て右に曲がり、
真っ直ぐ行ったところの交差点の左奥の角にジムがある。

そこで友達と待ち合わせした。


腕時計の表示は10:13……

少し早過ぎたかな。


暇を潰すために僕は携帯電話でゲームをする。


剣士だってゲームぐらいする。




…………
………
……




携帯電話の時刻表示が10:30になった時、
僕は顔を上げて辺りを見回した。

そう、待ち合わせの時間が来たのだ。


左を見、右を見、
そして後ろを見た時に友達が見えた。


そいつは僕の近くまで来て挨拶した。
だから僕も挨拶を返す。

「よぉ、エース」

「やぁ、タイショー」


タイショーというのは彼の仇名だ。

本名を逆さまに
(昔の、【日本】という国の様式に)
して、短くするとタイショーになる。

その【日本】という国でできた言葉
【大将】にも当てられるので面白い。

(この世界では和国語と英語のみが使われている。
英語はUKという国の言葉らしい。)


「で、何して遊ぶんだ?
ゲーセンか?ゲーセンなのか?ゲーセンなんだな?」


まだ何も言ってないのになんだ。
まぁ大概はゲーセンだが。

「久しぶりに郊外にでも行かないか?
最近ゲーセンばっかりだしさ」


「郊外かぁ……それもいいな。
森にでも行くか?」


郊外というのは、国の管理外の危険地域のことだ。
国はもう森林公園くらいしか管理していないため、
森や山は魔物の巣窟だ。

僕等はスリルと自然を求めて度々郊外へ行く。


「まぁ森でいいんじゃないか?」

「じゃあ決まりだな。
電車で近くまで行って歩き、だよな」



かくして僕等は森へ行くことになった。
タイショーはゲーセンに行く準備しかしておらず、
僕が先にいつもの場所で待つ、ということになった。


僕は自宅と逆の方へと少し歩き、
駅に入って切符を買い、

電車に乗って、A48番の駅へ。


そして駅から出て右に曲がり、
フェンスに無理矢理付けてあるドアの鍵を指紋認証で開け、

扉を閉め、
中にある一際大きな木
(いつもの場所、だ)
に寄りかかろうとすると、
木に文字が彫ってあった。


ここは僕等以外入れない筈なのに。


その文字は要約するとこうあった。


“遠き日の事を 忘るるな
 日々の渦には 飲まれるな
 其の刃で刺した 異形(もの、だろうか)の事
 其の目に見えた 人(ヒト、だ)の事
 其の手に感じた 力とて
 其の日に書いた 随筆を
 決して決して 忘れるな”


その下には暗号のようなもの
(僕はそう感じた)
があった。


“辿れ死の軌跡
 此処から始まる
 三つ家(や、かな)と壱里
 満ち潮の三ヶ月で逢いたい”

ピンとこない。


よし、無視しよう。



と、そのときタイショーが来た。

「飯買ってきたぜ飯!」

「何を?」

「缶詰!」

「缶切りはあるの?」

「あ゛」

馬鹿なのかな?タイショーは……

「いいよ、僕が持ってる」
「さすがはエース!」

しかしエースという仇名には慣れにくい。

因みにAche(エイク)からhを抜くとAceになる、という簡単なトリックだ。


「どうする?」

「奥に行こうぜ!銃も持ってきたからよぉ!」

そう言ってデザートイーグル(ハンドガンだ)を見せてくる。

彼は僕より一つばかり年上だ。
なので銃の購入ができる。

「僕はやだな、無免許だし」
「別にいいぜ?俺が使うし」


「じゃあ、行こう」


僕等は森の奥へと歩き出した。




【森―彼岸花群生域】
11:21:03



大体五分は歩いたかな。
この辺りには彼岸花が何故か群生している。
この辺りには魔物は寄り付かない。
それに、芝だけの場所もあるので休憩は出来る。



「デザートイーグルの弾は幾つ?」
「あ、買い忘れた」

タイショーの馬鹿……

とすると銃に入っている10発+1か。


「今11時21分だよ、どうする?」

「まだ歩こうぜ」



【森―廃村】
11:55:32


30分は歩いただろうか。
頑張れば寝泊まり出来る廃村についた。

「そろそろ飯食おうぜ」

「ん、待って」

僕の左手首に振動を感じた。
腕時計を見ると数字や文字は消え、
赤い点が二つ表示されていた。


「12時と3時の方向。
3時は遠いし遅いよ」



「んだよ……
さっさと片づけて飯食おうぜ」


僕は刀を抜き、
彼はズボンにつけたホルダーからシャムシール二本を取り出した。
(平剣を小さくしたような感じだ)


「距離3…2…来るよ」


廃屋の陰から出たのは一匹の犬……
否、屍犬【ゾンビドッグ】。

バイタリティが無く、脆い。
だがその牙で刺されればたちまち腐食するだろう。


タイショーが右手を振る。

「おらぁ!」

屍犬は横に飛んで避ける。
でも、左手が残っている。

「うおぁっ!」

マトモに刺さり、屍犬が飛び上がって下がる。


今度は僕が走り、両腕を大きく降って首に斬りかかる。


「はっ!」

首の半分で一旦止まり、また肉が裂ける。


首が落ちた。

刺さっているシャムシールを抜く。

「サンキュ」


タイショーがそれを受け取る。



腕時計を見るが、もう赤い点は無い。
片方は消えたらしい。
僕は‘watch’のボタンを押し、時計に戻した。


「さて、ご飯にしようか」


ご飯は美味しい缶詰。
中身は白米と肉とコーン。


「いただきます」
「コーンうめぇ」


マナー悪いな。


そうして食事を始め、
三十分程度で終わった。




「あー、食った食った」

僕は空き缶を地面に埋める。



「さ、行こうか」


此処からさらに東へ。
東はまだ探索していないからだ。




かなり歩いて。


【洞窟前】
14:43:00


「洞窟か……」
「洞窟だね」


大きな洞窟が目の前にある。


「行く?」

聞くと彼は顔をしかめ、頭を掻いた。

「どーすっかな……」


無理もない。


理由は単純、危険だからだ。

森自体がほぼ立ち入り禁止、
さらにその奥の洞窟と来た。



「……入ろうぜ」

「……本気?」


「あぁ、勇気を試すべきだと思うんだ
危なくなれば逃げればいい」


逃げられるものならね。



僕等は、新しい試練にぶつかった。
僕等は、新しいものを見つけた。



僕等は、命懸けの鍛錬に身を乗り出した。



僕等は、暗い暗い洞窟の中へ、

吸い込まれるように、


踏み出していった…………





第一章 鍛錬 了


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