俺の名は佐助。今日まで与えられた任務を順調にこなしてきた。

しかし今回だけは失敗だ。


もともとこの任務は中忍上位者向けの内容だった。

しかし今までの俺の経験と勘があれば任務は達成できると思っていた。


実際に現場に赴いてみて多少の困難はあったが、それも想定内のことだった。

問題の機密文書を手にしたところまでは良かったが、俺はひとつ大きな過ちを犯した。



機密文書を見張っていた他国の忍びの存在を気付くことができなかったのだ。

その小さな隙を敵は見逃さなかった。



おれが標的の情報を掴んだ途端、他国の忍はおれの存在を国中にばらしたのだ。

あっという間に忍びである俺の情報が現地で広まっていく。



相手に自分の存在が知れてからというもの俺はひたすら逃げた。

事前に逃走経路はしっかりと把握していた。

幾重にも張り巡らせた罠や幻術などを駆使して、ほとんどの追っ手は退けたはずだ。



しかしまだ追ってくるやつがいる……ただ一人だけ振り払えない奴がいる!

もはや任務に失敗した俺が出来ることは、生きて里に情報を持ち帰ることだけなのだ。

こいつが果たしてうまく逃がしてくれるかどうか……


「ふふっ、もうおしまい?」

背後から涼しげな女の声がする。

そう、こいつが追っ手……くノ一「沙織」だ。

俺は全力で逃げているのだが、沙織は走る俺の背中を指先ですぅーっとなぞり……また距離を置いた。


「くそっ! ふざけやがって!!」

俺は横目で沙織の声がするほうを見る。

左斜め後ろに手裏剣を素早く投げつける。


「きゃっ」

俺を追いかける沙織の体を手裏剣が突き抜けた。

今度は俺の右側のほうから沙織の声が!


「ふふっ、甘い甘い……隙だらけだよ。えいっ」

こいつには完全に移動速度で負けている。


 「っ!!……うがっ!!!」

次の瞬間、俺の左足に鋭い痛みが走った。

逃走する俺の動きが激痛とともに鈍る。


「忍法・影縛り。もう逃げられないよ?」 

痛みを堪えて俺は自分の左足を見る。

そこには沙織の細い影が俺の片足に絡み付いていた。


見る間に沙織の影は俺の足から腰まで絡めとり、広がっていく。

俊敏を誇る俺の体から自由が奪われていく。


「はなせっ! このっ!!」

おれは必死でもがいた。

しかしどうにもならない。




「さぁて、どうしようかなぁ? ふふっ」

沙織は自分の影を巧みに操り、俺の四肢に絡みつかせる。

そして俺の動きが完全に止まったことを確認すると、彼女は影を木の枝に固定した。


まるで蜘蛛の巣にとらわれた獲物のように俺は空中で大の字にさせられた。この上ない屈辱。


「俺をどうするつもりだ! 早く殺せ!!」

おれは沙織に向かって吠えた。

余裕の表情をしている美しいくノ一が気に入らなかったんだ。


「ふふっ……」


沙織は自分の頭部を覆っていた忍服の一部を脱いだ。

美しい黒髪が宙に舞い、甘い香りがあたりに漂う。


肩より少し長い黒髪を指に巻きつけながら沙織は楽しそうに俺を眺めた。

短めの装束から露出する細くしなやかな脚、忍服の上からでもその形を主張する胸のふくらみ。

少しだけ露出している鍛えられた腹筋……

しかし、やつらは男をたぶらかすためだけの存在。

そんなくノ一に、このおれが忍術や体術で遅れをとるわけにはいかない!


「どこで捕まえようか迷っちゃった。体術では完全に私に負けちゃったね?」

不敵な笑みをたたえ、逃走に失敗した獲物を見下す沙織。


 「貴様……っ!」

自分の情けなさを隠すかのように露骨に感情を出してしまう俺。

両手に力を入れようとしても……なぜか脱力してしまう。

この影縛りのせいだろうか。


「そんなに怖い顔しないでよ。ちゃんと奪ったものを返してくれたら解放してあげるんだから」

沙織から意外な発言。

拘束された忍など、自害するか拷問されるかしかない。

場合によっては自害すら不可能だ。

解放などという選択肢自体がありえないのだ。


「なんだと……」

俺の奪ったものはあくまでもただの情報だ。

一応書状の形はしているが……忍である俺が内容を忘れるわけが無い。


ここは素直に返して許しを乞う振りをするか。

しかしそんな俺の甘い考えを見抜いてくる沙織。


「もちろん機密文書は返してもらうわ」

言い終わると沙織は服を着たまま俺に近づき、おもむろに接吻をしてきた!

奴の舌先の感触が柔らかく俺の口の中に広がる。


「私の事しか考えられないくらい犯してあげる。そのあと、自由にしてあげるわ……ふふっ」

俺の頭を抱きしめながら耳元で沙織がささやく。

突然の熱い唇に、俺は動揺した。

しかしこれは好都合だ。

全てを忘れた振りをすれば沙織は俺を解放するだろう。


それに俺の奥歯には女にしか効かない強烈な催淫毒が仕込まれている。

頃合を見てそれを沙織に飲ませれば、こいつは俺の言いなりになるはずだ。

俺は沙織の接吻を受けつつ反撃の機会を待つことにした。



………………

…………

……



しばらくの時間が過ぎた。


俺の唇は沙織に奪われたままだ……意識が朦朧としてきた。

かなりの時間、沙織の接吻は続いた。

ここまで口の中を舐めまわされて来ると呼吸や意識が乱れてくる。


正直、舌先の感覚が無くなってきた……しかしここで甘美な誘惑に負けるわけには行かない。

性技といえども、くノ一に屈することは男の忍としてはあってはならないと俺は思っている。


「そろそろいいかな……ふふっ」

「?」

沙織はゆっくりと唇を解放すると、その小さな口元を手の平で抑えた。

ぽとりッ……なにかが沙織の手の中に落ちた。



「あ〜、やっぱりこの薬もってたのね」

にっこりと微笑む沙織。

その手の平には、俺の奥歯に隠してあるはずの秘薬があった!


「あなたのお口の中をたっぷり犯してあげたら自然と出てきちゃったわよ?」

「あっ……あうっ……あああ!」

あまりの驚きと同時に疲労感に襲われてうまくしゃべれない俺。


「ふふっ、どうやって取り出したか不思議でしょう? これがくノ一の力よ……」

沙織は取り出した媚薬を唾液で溶かして、自らの唇に薄くのばした。

唇が薄い紫に染まる……


「もうひとつ言っておくけど、私にはどんな薬も効かないわ」

沙織は自分の腰の辺りから丸薬を取り出た。

そして先ほどと同じように唾液で溶かしながら口紅のように薄くのばした。


「あなたが持っていたこの薬と、私の持っている男性用の媚薬と混ぜると……すごいわよ」

今度は沙織の小さな唇が魅惑的な桃色に染まる……そして俺のほうに近づいてくる。



続く

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