ここは桜高軽音部の部室。
終業のチャイムもなったばかりで、メンバーのほとんどはまだ来ていない。
ガラッ
「律……」
部長である田井中律(たいなかりつ)が部室でCDを聞いているところへ、
秋山澪(あきやまみお)がやってきた。
「おー、どーした? 澪♪」
「あのさ、ちょっといいかな」
「んー?」
いつになく神妙な面持ちの澪を見て、律も敏感に何かを感じ取った。
「なにがあったんだ、いってみろ!」
「こんなこと誰にもいえなくて……」
「なんだなんだ?」
「わっ、笑わないでくれるか?」
「このあたしが澪の言うことを笑ったことなんて今までに……」
「いっぱいあるだろ」
「そうかな? あはははは…………んで、なに?」
澪は部室の中を見回して、唯とムギがいないことを確認した。
親友の律だけとはいえ今の澪にとって悩みを打ち明けるにはかなりの勇気が必要だった。
律もそのことを感じていたから、何も言わずにしばらく澪を眺めていた。
「実はね……密かに私のことを好きだって、ずっと言ってくれてた男子がいてさ」
ようやくモジモジしながら澪が語りだした。
「ほっほう、さすがにモテますね。澪ちゅわん♪」
ガンッ
「マジメにきけー!」
「あい……イテテテ」
「……それでね、私もその人のことを、好きになりかけてたんだ」
「へー、どんなひと?」
「よく私の似顔絵を書いてくれるんだ。それも実際の私よりも可愛く書いてくれるんだ!」
カシャカシャカシャ
部室のパソコンをいじって、その似顔絵があるサイトを開く澪。
甲羅を背負ったブタさんがサイトオーナーのトレードマークらしい。
「いいなー、澪。あたしにもそんな人がいてくれたらいいのに(ディスプレイのほうをチラ見) 」
「続けるぞ」
「はいな」
「でも、最近その人から連絡がなくってさ。つい自分から彼の様子を見に行っちゃったんだよ」
ふっと寂しそうな顔をする澪。
律は腕組みしてニヤニヤしながらその様子を眺めている。
「なかなかうまい作戦だなぁ! そうやって澪の気を引こうとしてたんだー!!」
「そんなんじゃ!……ないとおもうよ」
「あっそ。それで?」
「彼の様子を見に行ったんだよ。そしたらさ、あのね……」
「他に女が出来てたー! なんてなっ」
「ひぅっ!!!!!!」
澪は急に肩をビクンと震わせて律のほうを睨みつけた。
そして次の瞬間、泣きそうな顔をしてから下を向いた。
「えっ(汗)」
「……」
「そうなの? まじで??」
「うん……」
そしてしばらくの沈黙。
口走ったことが図星だったとはいえ、律は悩んだ。
(澪が傷心しているのを慰めるか、励ますか……。)
ここはひとつショック療法でいくことにした。
「なんだー、そういうことか。でもさ、それは澪も悪いんじゃないの?」
「わっ、私は悪くない!」
「そーかな? そーかな? そーかな??」
「なんだよ……律、何が言いたい!」
「だってさー、澪はずっとその人が自分を好きでいてくれると思ってたんだろ?」
「うっ……そんなこと……ない……さ」
「嘘つきな澪しゃん♪」
「律っ!」
「澪はプライド高いもんねー。自分から相手に『好きです』なんて言えないし、要するに相手の気持ちに甘えてたんだろ?」
律の言葉に打ちのめされ、黙ってうつむく澪。
親友の容赦ない指摘に反論する材料がない。
「でもさ、そう言ってくれる人がいなくなっちゃうと寂しいもんだよね」
「……」
澪を責めるような口調から一転して、律は優しい声で語りかけた。
「私は澪のこと、笑ってないぞ」
「律……」
「だって、澪はマジメだもん。その悩みだって、澪がいい加減な性格だったら出てこないわけだし」
ここでようやく澪も気づいた。
律が自分を見つめる視線が穏やかになっていることに。
普段はイタズラいっぱいな性格の律ではあるが、澪が本気で相談した時にはいつもこの顔になる。
「りつぅ……」
優しい瞳で見つめられると、何だか心が緩む。
「本当はさ、悔しくて寂しくて泣きたかったんだろ?」
「うん……」
「おいでよ、澪。ひさしぶりに頭なでなでしてあげる」
優しく微笑みながら両手を広げる律の胸に、澪は飛び込んだ。
「うっ、うっ……ああああぁぁぁん!!」
「身体はあたしより大きいのにこういうときは子供だなぁ〜、澪」
「ひっく、ひく……う、うるさい……っ!」
「いーから、いーから。よしよしよし♪」
柔らかい黒髪をそっと撫でる律の指先を感じながら、澪の心が少しずつ暖かくなっていく。
「あたしね、泣いてる時の澪って大好きなんだ」
「おっ、怒るぞ!」
「あっははーん、やっぱりかわいい〜」
「ううぅぅ……!」
「いつも素直じゃないからな、澪は」
「そんなことないっ!」
「んー? そんなことあるから、男に逃げられるんだろ〜?」
「やっぱりいじめっこだ、律ぅ……」
澪は律の背中に回した手をギュッと強く締め付けた。
「ふふっ、もっと素直になってればこんなことには……」
「なんだよ!」
「澪から『好きです』っていわれたら、断れる男なんていないってば!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ! あたしが男だったら、澪のこと離さないもん」
そういいながら、律は未だ小さく震える澪の肩を強く抱きしめた。
「律が男だったら、彼氏だったら良かったのになぁ……」
「今すぐ澪と結婚してあげられたのにねっ!」
「うん……」
落ち込んだとき、澪は必ずこのセリフを吐く。
無理だとわかっていても、律にとってはうれしい一言だった。
そしてこの言葉を聞いた後、律は決まってこういうのだ。
「澪の彼女になら、なってあげられるかも?」
「なっ! ななななな!!」
慌てふためく澪の様子がとても愛おしい。
「うそだよーん」
「もうっ!! からかうな!」
「久しぶりに二人で気持ちよくなろっか?」
そして再び澪の頭を優しく撫でると、しばらくして澪がゆっくりと首を縦に振った。
先へ
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