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「きょうはバレンタインデーだというのに……」

僕は仕事を午後から有給休暇にしてJR線のある駅に向かった。
目的のお店はここから歩いて10分くらい。
事前にネットで調べてあるので迷うことも無いだろう。
深呼吸をひとつしてから、僕は早足で歩き始めた。



僕が目指しているのはお風呂……いや、特殊浴場。
いわゆるソープである。
今は便利なもので、ネット上で色んな店や女の子を検索できる。
僕は風俗の中でもテクニシャン系の女性に興味があった。
正確には、風俗嬢のテクニックで足腰立たなくなるほど抜き取られたい。

僕の望みを叶えてくれそうな店はとても少ない。
たいていは受身の風俗嬢や事務的なプレイを行う姫に当たってしまい、単なる性欲処理に終わる場合が多い。
しかし今回は徹底的に調べ上げて人気ナンバー1の予約まで取った。
ハズレは無いはずだ。

僕の目指すお店の名前は「セドリック」という。
入浴料3万円、指名料3万円の高級店。そして予約指名した風俗嬢の名前は……


「セドリックへようこそ。麻衣です。あなたのお名前は?」




彼女が今日の僕の相手「麻衣」さんだ。
年齢は僕より少し上か、ずっと上なのかもしれないけどわからない。
声を聞く限りでは年下なのかもしれないけどそんなの当てにならない。
それは決して部屋が薄暗いせいだからではない。


麻衣さんは身長160cmくらい。
女性としては普通のほうだと思う。
チャイナドレス風のセクシーな衣装が彼女の細い体にとてもよく似合っている。
ネット上で見るよりも化粧は薄く、肌のつやは美しい。
キリッとした眉と、少しつり目の大きな目と長いまつげ。
小さく整った鼻。耳には小さなプラチナ色に輝くピアスをしている。

まるで正統派アイドルのような顔立ち。
彼女の艶やかな黒髪は後ろでふんわりとまとめられている。
細い首から肩にかけてのラインは今までのどの女性よりも美しいと思った。

(バストは確か……85だっけ)

ネットで見た数字以上にふっくらとしていて素晴らしかった。
キュッとくびれた腰から伸びる脚は細く長い。
足首のほうを見ると細い金の装飾品が付けられていた。

しかしそんなことは問題ではなかった。
彼女の醸し出す雰囲気は、すでに僕を虜にし始めていたのだ。

「えっ、僕ですか? 僕は…リンです」

もちろんとっさに思いついた偽名だ。
わざわざ風俗で本名を言う必要も無いだろう。

「そう。リンくんっていうんだ? よろしくね」

麻衣さんは特に名前については触れずに微笑み返してきた。
彼女のあとについて部屋の中に入る。
歩きながら僕は彼女の後姿と、何ともいえない芳香に酔いしれていた。




「このお店のシステムはご存知かしら?」

部屋に入ると僕の上着をきれいにハンガーにかけながら麻衣さんが語りかけてきた。
僕は麻衣さんの質問に無言で頷く。
そして黙って小さなメモを渡した。

「うふっ、ありがとう」

麻衣さんは嬉しそうにメモを受け取ると、微笑みながらもまじめな顔で内容を読み取る。
この店は自分が指名した風俗嬢に自分の好みのプレイをリクエストできる。
どんなに無理な注文でも「NO」と言わないのが売りだった。
さらにあるレベル以上のテクニシャン嬢の責めに耐え切ると、次回のプレイが無料になるという特典付き。
ネット上ではそのことが評判になって、この店は急成長した。

しかしそれはお互いが裸になる前だけに許された暗黙の了解。

僕は麻衣さんに渡したメモにはたった一言だけしか書いていなかった。


『僕を徹底的に骨抜きにしてください』


これは麻衣さんに対する挑戦状だった。
この店でナンバー1のテクニックを持つ彼女がこんな文章を見たらどうなるのか。
僕はそれを考えただけでも背筋がぞくぞくしてしまう。


「お望みどおりにしてあげるわ……」

今までアイドルのように可愛らしかった麻衣さんが淫らな笑みを浮かべた。
その表情だけでも僕はこの先に待つ快楽を予感できた。



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