蟄 居

 

フィリピンから帰国した韓信とよう子を、成田空港で数十人の怪しげな黒服連中が待っていた。
目が合うと男達は一斉に向かって来た。
韓信「悪いな、お迎え?」
よう子「そんな雰囲気じゃないみたい。逃げるわよ」
2人は通路を走って逃げたが、バスターミナルの所で追い付かれ囲まれた。全員銃を手にしている。
男達の1人が言った。「大人しく一緒に来てもらおうか?」
2人はやむを得ず刀を抜いた。そして目にも止まらぬ速さで、全員を斬り殺した。
それを見ていた通行人が悲鳴を上げた。警察が駆け寄って来た。
2人はその場から姿を消した。
後日、ドリセミ本部に出頭した2人に紀州九度山での二ヶ月の蟄居が言い渡された………

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二ヶ月後放免された韓信とよう子は、根来に向かっていた。甚兵衛を仲間にするために。
甚兵衛は、根来忍者の17代目の頭領であり、「伏竜・鳳雛・甚兵衛」と言われるほどの知謀の人であった。
韓信「甚兵衛様、仲間になるかなあ?甚兵衛様ともなると敵からも誘いが来てるかもよ」
よう子「今度の戦いには、軍師として、甚兵衛様が 必要。敵になるくらいなら……私が消すわ」

甚兵衛の屋敷に着いた 2人は、門を叩いた。
「東京から韓信が参りました。甚兵衛様にお会いしたい」
門がギィィと音を立てて開いて、女が出て来た。
女「お待ちしておりましたどうぞお入り下さい。」
2人は客間に通された。そこには男が1人座っていた。
総髪に黒い陣羽織り、腰には胴太貫を差している。
韓信「はじめまして。東京から参りました。韓信です、そしてこちらが…」
甚兵衛「よう子さんですね」
よう子「はい。はじめまして」
甚兵衛「私が根来忍者の17代目頭領、甚兵衛です。今は、俗世を離れ、兵法と拷問の研究に明け暮れています。」
よう子は、甚兵衛の後ろにいる女の方を見ながら尋ねた。
「そちらの方は?」
甚兵衛「これは私のたった一人の弟子です。元は、とりあたま様の塾で学んでいた者で、2年程前から私の弟子になりました。」
女「松下あけみと申しますよろしくお願いします。」
よう子「はじめまして。」
韓信「早速ですが、甚兵衛様、私達の仲間になっていただきたいのですが。」
よう子「今度の戦いに甚兵衛様を軍師としてお迎えしたいのです。」
甚兵衛は、しばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「せっかくのお話しですが…お断りします」
2人「何でですかー」
甚兵衛「実は、あなた達の敵と思われる連中からも誘いを受けています。私は長年研究してきた拷問の知識を活かしてみたい。たとえあなた達と敵になったとしても…」
韓信「困ったなー。」
3人は黙り込み、数分が過ぎた。
韓信が口を開いた。「庭から見える景色が素晴らしいですねー。ちょっと見てきていいですか?」
甚兵衛「どうぞ。あけみ、案内しておやり。」
韓信はあけみと庭に出て行った。よう子は座ったまま大きな瞳で、甚兵衛を見つめている。
甚兵衛も、じっとよう子を見ている。2人は同時に刀を抜いた。
甚兵衛は水鴎流の達人であったが、場数を踏んだ分だけ、よう子の剣が勝った。
甚兵衛の刀は弾かれ、天井に突き刺さった。よう子は、甚兵衛の首筋に兼定を当てた。
そしてゆっくり顔を近づけ……………甚兵衛の頬にキスをした。そこに韓信が戻って来た。甚兵衛は急いで天井の刀を抜き鞘に納めた。よう子は何事もなかったように、澄ましてお茶を飲んでいる 甚兵衛は考えていた。
(この女、一体何を考えている?いつでも殺せるという威嚇か?それともキスした事を韓信にばらして、私を韓信に狙わせるつもりか?…いずれにしてもよくない状況だ…)
韓信が声をかけた。
「さっきの件、もう一度考えていただけないでしょうか?」
甚兵衛は仕方なく答えた。「このお話、喜んでお受けします」
韓信「ひゃっほ〜、これは嬉しい。では早速、東京に行きましょう。」
甚兵衛「あけみも同行させていいですか?」
よう子「どうぞ」
準備が出来た4人は、根来を後にした。
韓信が気が付いたように甚兵衛に言った。
「あれっ?甚兵衛様、ほっぺになんか付いてますよ。フフフ」
甚兵衛は、(2人で私をはめやがったな)と思いながら、手ぬぐいでゴシゴシ顔を拭いた。

 

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