「こまったな・・・」
いつまで経ってもマルクが戻ってこない。
さすがにウィルも疲労を隠せなくなってきた。
目の前で固まっていたスライムが再び動き出そうとしたのをあらためて凍らせた。
「まじで困った・・・」
ウィルの周りには氷の柱のごとく、数十体のスライムたちが凍り付いていた。
しかし今、彼の前に立つのはコアスライム。100体あまりいたジェルスライムの親玉だ。
『応援は来ないのね?』
「・・・・・・」
コアスライムは不敵に微笑んでいる。
他のスライムとは違って彼女だけは透明ではなかった。
(参ったな・・・この子は・・・)
ウィルが責めあぐねていた理由は他でもない。
コアスライムは人間に寄生しているからだ。
下手に攻撃すれば本体の人間の娘を傷つけかねない。
それをわかっているからこそ、コアスライムは娘の下半身を水浸しにしていた。
『あなたの得意の氷の技で私を攻撃しないの? スライムバスターさん』
ニヤニヤ笑いながら距離を詰めてくる少女・コアスライム。
このまま彼女を凍りつかせるのはたやすい。
しかしそれでは本体の少女も死ぬかもしれない。
子分のジェルスライムを片付けるために多くの精力を消費したウィルにとって、人間の娘を傷つけないように冷気を調節するのが困難を極めるのだ。
「なあキミ、その子から離れてくれないかな?」
『イヤよ! 離れた瞬間にあなた絶対攻撃するでしょ!!』
「んー・・・やっぱダメか」
無理を承知で相手に泣きついてみたが失敗。
本当に困った・・・悩むウィルの背後にコツコツと足音が迫ってきた。
「こんな雑魚相手に何やってんのよ。」
「あっ」
『はっ!! あの人、リップスの!?』
「あれ? 知ってるの?ライムのこと」
ウィルとコアスライムが同時に声を上げた。
真っ赤に渦巻く淫気をまとったライムが唇の端を吊り上げてコアスライムを見つめていた。
「そっか。あなたらしい優柔不断・・・」
ライムはふふっと鼻で笑った。
コアスライムを一目見て、ウィルがなぜ止めを刺さないのかを察したのだ。
軽く左手を上げ、ライムは闘気を集中させる!
身の危険を察知して、慌てふためくコアスライムの少女。
『あ、あ、あああ、ちょ、ちょっと待ってよおおぉぉ!!』
「ウィル見てなさい。こんなやつは・・・」
ボオオォォッ!!
左手にたまったライムの力が炎へと変化する!
「はあああああああぁぁぁ!!!!」
ドゴオオオオォォ・・・という轟音を立てながらコアスライムめがけて放たれる火球。
ウィルはあっけに取られたままコアスライムが燃えていくのを見ていた。
「一瞬で燃やし尽くしちゃえばいいのよ。ほら消火!!」
「お、おうっ」
慌てながらも燃え盛る炎に向かって凍結魔法を放つウィル。
見る間に炎が収まり、すこし焦げた少女がパタッとその場に倒れた。
(うわぁぁぁ、なんもためらわずに女の子を燃やしちゃったよ・・・)
ウィルはドキドキしながらも炎の中から少女を救い出した!
コアスライムが消滅したことで、氷の柱となっていたジェルスライムたちも消え去った。
「女の子は心配だけど・・・助かったよ、ライム!」
ほっとしたのか、ウィルは隣で腕組みしているライムに抱きついた。
彼にしては珍しくストレートに甘えてくる仕草。
ライムは顔を真っ赤にしてウィルを跳ね飛ばした。
「ちょ、ちょっと!こんなところで抱きついてこないでよっ!!」
「あっ、ごめん・・・・・・」
あわてて離れるウィルを見て、ライムはくすくすと笑っている。
「でもありがとう。ライムがいなかったら、今回は危なかったかも」
感謝しながらも自分の力のなさに肩を落とすウィル。
いつもは頼りっぱなしで、なかなか隙を見せない彼が落ち込んでいる。
そんな彼をライムはとても可愛いと感じていた。
「ふふっ、これでも食べて元気出しなさいよ」
少し照れくさそうに、ライムは懐から小さな包みを取り出した。
それをウィルの胸元に押し付けるようにして手渡す。
「こ、これ・・・くれるの!?」
「ちょっぴり早いバレンタインデー。あなたにあげるわ。」
手渡された包みを慎重にあけると、黒と白のチョコレートがいくつか入っていた。
試しにひとつかじってみると柑橘系のリキュールの香りがした。
少し元気が出たウィルは微笑みながらライムを抱き寄せた。
ライムも素直に身を寄せた。
今度は彼を跳ね飛ばすことはなかった。
暖かな月明かりの中、ふたつの影が少しの間だけ重なった。
数日後 ―――
あの後、病院に運ばれたコアスライムの少女はなんとか命を取り留めたという。
ウィルはほっとしたのも束の間、ハンター協会本部に呼び出されて大目玉を食らった。
END
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