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「お母様に怒られちゃう……」

今にも泣き出しそうな表情をして、フローラは帰路についていた。

無断で家を出てから一日と半分が過ぎていた。

しかもその間に不可抗力とはいえ、ハンターの卵といった少年を犯してしまった。

母に怒られる原因を二重に作ってしまった……フローラの足取りは重かった。



しかし戻ってみると、屋敷の門が大きく開け放たれていた。

普段ならこんなことはないのに……衛兵がきちんと門扉を閉ざしているのに……

彼女の頭の中に嫌なイメージが浮かんでくる。

急いで駆け出すフローラ。


屋敷は誰かに強引に門を開けられ、荒らされているようだった。

盗賊でも入ったの!?

フローラは必死で母を探した。


「お母様? ミモザ! お願い、返事して!!」

あちらこちらから火の手が上がり、建物自体も燃え尽きようとしていた。

フローラは必死で母を捜した。

母の笑顔を探した。

とにかく無事であってほしい……その思いだけだった。


ようやく母の部屋に着いた。


「お母様!」

フローラは思い切ってドアを開けるが、人の気配が全くしない。


「お母様…………」


フローラはベッドがあった近くに小さな手紙を見つけた。

『心優しいフローラへ』

それはミネルヴァがフローラに宛てた遺書だった。

『あれほど勝手に出て行ってはダメといったのに……仕方のない娘ですね。それでもあなたは可愛い私の娘です。』

読んだ瞬間に涙があふれる。

フローラは頑張って読み続ける。


『私は人間のハンターと戦い、敗れました。
 
 今までで一番の強敵でしたが悔いはありません。
 
 彼との戦いを通じて私の考えが間違っていないことがわかったからです。
 
 人間達にも守りたいものがあり、愛する人がいる。
 
 戦いの中で相手から熱い思いが伝わってきました。
 
 何度も何度も精を搾っても決してあきらめない彼の姿を見て、

 不覚にも感じてしまいました。その時点で私はクロリスの当主としては失格ですね。』


母の戦士としての誇りを感じる文章だった。

フローラは泣くのをやめ、必死に母の最期を思った。

手紙はあと少しだけ残っていた。


『実はこの手紙も彼に負けた後、最後にお願いをして書かせてもらったのです。

 戦いを通じてしか分かり合えない悲しい出会いでしたけど……最後は心が通じました。

 フローラ、人間を憎んではいけない。お互いにつぶしあうのは間違っています。

 あなたならきっと血塗られた未来を変えられる。だから……』


手紙はそこまでだった。

本当は伝えたいことがたくさんあったに違いない。

もっともっと……母と話をしておきたかった。

再び視界が涙でゆがむ……

フローラは母の手紙を握り締め、声を押し殺して泣き続けた。



「ああっ!? まだここに一匹いやがったぜぇ!!!」

フローラの背後で大きな声がした。

涙を拭いて振り返ると、ひげ面の屈強な戦士といった風貌の男がいた。

こちらを見てニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。


「しかも上玉だぜ!!」

その声を聞いてさらに二人の男達がやってきた。

一人はバンダナをした長身の魔法使い。


「なんだ、ガキかよ! このロリコンがぁ!」

もう一人はでっぷりと太った男で、緑色のローブを纏っていた。

三人とも共通して言えるのは、荒くれ者というか……誇り高い勇者の雰囲気ではないということだ。


「あなた達が母を倒したのですか?」

フローラは男達の方を振り返り、静かに尋ねた。


「ああん? なんだいお嬢ちゃん」

ひげを撫でながら最初の男が言った。


「クロリスの屋敷が燃えてたから入ってみただけよ」

どうやら違うようだ。

しかしその先の言葉を聞いて、フローラは凍りついた。


「そしたらなんと! クロリスの女戦士が倒されまくてったのさ。もったいないから消える前に全員犯してやったぜ! ガハハ!!」


「奴ら普段は強すぎて我々には手が届かない存在だったからのぉ」


「でもよ、最後の奴は特に良かったな……あれ、ミネルヴァとかいったっけ? あいつはサイコーだった」


堪えようのない怒りで肩を震わせるフローラを取り囲むように三人がジワジワと間合いを詰めていた。

彼らに向かって凛とした声でフローラは尋ねた。


「あなた達は本当に人間ですか? 淫魔ハンターとは……人間とはもっと気高い存在ではないのですか!?」

亡き母の手紙につづられたハンターとは違う人間達が目の前にいる。

こんな奴らとでも争ってはいけないの?

フローラは自分の中で膨れ上がる怒りと母の遺言との間で葛藤していた。



「ハンター? まぁ、俺たちは下っ端さぁ……だから何やってもいいんだよ! ほら、脱げや!!」

長身の男がフローラの肩に手をかけた。

近づいてみると目の前の少女がまれに見る美形だということがわかって、息を荒くした。

しかもどことなく上品な令嬢といった雰囲気をかもし出している。

男達は三者三様にゴクリと息を呑んでいた。


「なんだ震えているのか? でもよ、お前にも淫乱な血が流れているんだろう?」

「心配しなくてもヒイヒイいわせてやるよぉ」


フローラは確かに震えていた。

彼女は生まれて初めて人を憎んだ。

こんな奴らを人間として認めることは出来ない。


(許して、お母様……私はもう耐えられない)


男達に向き直ったフローラの瞳が深紅に染まる。

生まれて初めて全力で解放される淫気。

彼女自身でさえ恐れていた強大な力。


「な、なんだよおまえ!」

フローラの肩を掴んでいた男が最初に異変に気づいた。

少女に触れた指先にまったく力が入らない。

自分の意思が伝わらない。

彼女の肩から自分の手のひらに流れてくる淫気によって、神経が一気に侵されてしまったのだから。



「……お望みどおりにしてあげますわ」


三人の男達は気づいていなかった。

目の前の少女が、名門守護淫魔の末裔であることに。

彼らがフローラを取り囲んでいたことがさらなる不幸を生み出した。


「ひあああああああああああああああ!!」


太った男がローブの上から自分の股間を押さえたまま膝をついた。

フローラの強烈な淫気を至近距離で浴びてしまったので、体が言うことを聞かない。

それどころか瞬間的に射精に導かれ……さらにもう一度ドクドクと精を放つ。


「お、おおおおおぉぉぉ!?」


ひげ面の男も同様だった。

初めてフローラを見たときの余裕などは微塵も感じさせない表情。

しかもあっという間に射精……快感にだらしなくゆがんだ表情もすぐに苦痛に変化する。

「存分に気持ちよくして差し上げますわ」


長身の男は言うまでもなくすでに倒れこんでいる。

フローラは彼らの様子を見ながら、さらに淫気を指先に集中させて一人一人のペニスをなで上げた。


「これは私からのプレゼントです」


フローラがなで上げたペニスがヌラヌラと輝きだす。

淫気を融合させた粘液が、フローラの手と同じ形の粘体になった。

最後にフローラは粘体に指示を出すために淫気の玉を3つ放った……




男達の断末魔の叫びを背中に感じながらフローラは屋敷を後にした。

もはや誰もいない屋敷には用はない……彼女の手には母の手紙だけが握られていた。




翌日。


「お母様……」


フローラは人間達によって焼け野原と化した屋敷跡に小さなお墓を作った。

大事な母からの手紙もお墓に入れた。


「うっ……ううぅぅ……」

厳しかったけど大好きだった母はもういない。

思い出したら涙がまたにじんだ。



「レベッカ……」


ポツリと呟いたその名前は、百戦錬磨の伝説のサキュバスの愛称。

そうだ、私はこれからレベッカと名乗ろう。

フローラ・クロリスという名は捨てよう。


これから先、人前で涙を見せることはない。

人間への憎しみだけを抱いて生きよう。


まだ幼い少女は決意した。

後に彼女はスライム淫界のエリート集団のまとめ役として人間界を脅かす存在になる。





END

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