「ただいまー」
「おかえり、不良兄貴」
「あん?」
家に着いた俺を出迎えたのは、エプロン姿の柚子だった。
こいつがメシを作るなんて珍しいな?
「あたしが作ったハンバーグを食べたくなくて、外食してきたな!!」
怒ってる。
なんかしらねーけど、元気一杯に怒ってる。
「なんとかいいなさいよー!!」
言い訳するのも面倒くさいので、俺はストレートに言った。
「夏蜜さんとデートしてた」
「はい??」
「一緒にプールいって、遊んでた。」
ポカーンと口を開けたまま固まる柚子。
そりゃ信じられないだろう。俺だってそうなんだから…
「兄貴、こっちみて!」
ぐいっ!
「むにゅ…!」
俺の顔を覗き込んでくる妹。
目の奥を探るようにジーっと…
「やだ…ほんとっぽい……」
お前、どこまで兄を信用していないんだ?
「よ、よかったね! 憧れの人とデートなんて」
「ああ…」
きっかけを作ってくれた柚子のおかげだよ、と言おうとしたんだが
なぜか言葉にできなかった。
玄関で靴を脱いでいる間、俺と柚子の間にはなんとも気まずい沈黙が流れた。
妹が応援してくれてた相手とうまく行きそうなのに、なんで気持ちが高ぶらないのだろう。
きっと昨夜の出来事が尾を引いているんだろう…
「ごはんあるよ! 食べなよ、兄貴っ」
「ゆず…」
こういうときほど兄妹であることが恨めしい。
無理やり明るく振舞う柚子の姿が痛々しくて目をそらしてしまう。
「なんだー、お赤飯にしておけばよかったかな? ハッハッハ」
声は明るいのにしんみりしている様子がはっきりわかる。
こういう時、おれはどうすればいいんだろう?
自問自答する俺に向かって妹は言った。
「もうあたしの特訓は…いらないよね?」
「ああ…もう充分だ」
「そっか! あたしもなんだか疲れてるっぽいから、きょうはお風呂入ったらすぐ寝よう!」
それだけ言い残して、柚子は自分の部屋へと向かっていった。
しばらくしてから俺は用意されていたハンバーグを食べた。
いつもよりとても美味しくできていた。
きっと俺に食べて欲しくて、ゆずが一生懸命作ったに違いない。
明日起きたらちゃんと…あいつを誉めてやろう。
いつもみたいに頭をガシガシ撫でながら笑いかけてやろう。
そんなことを考えながら俺は布団に入った。
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